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紋章憑き~第六章【厄介な意地】

  第六章【厄介な意地】

「……朝、か………………はぁ……」
 朝。あまり眠れなかった。昨日一日、色々と有りすぎた。眠りに落ちる直前まで、ずっと隼人とのキスシーンばかりを思い浮かべては体を火照らせていたのだが、目覚めて早々に隼人とのキスシーンをまた思い出したナスターシャは真っ白な枕を抱いて「ううぅぅ……」と唸り悶える。
 キングサイズベッドの上をゴロンと転がってはブツブツブツ、ゴロンと転がってはブツブツブツ。そしてまた枕に顔を埋めては唸っては悶える。細く綺麗な髪の毛は乱れに乱れ、グレー色のアダルトチックベビードールは豪快に裾が捲れて下着が露わになるが、部屋にはナスターシャの他には誰も居ない。だから全く気にしていない。
「はしたないですよ」
 俯せの格好で枕に顔を埋めたナスターシャはモソモソと裾を戻すと、半分ほど顔を起こす。
「……ミュアブレンダ」
「なんですか」
「……私はおかしくなってしまったのだろうか……」
「いきなりですね。一体どうしましたか?」
「……したいんだ」
「はい?」
「……ハヤトと、また口吻がしたい……されたい……したい……はぁ……」
 そう言ったナスターシャはどこかポーッと惚け、またボフっと枕に顔を埋めた。
 何ともいやはや。人間、恋をするとここまで変わってしまうものなのか。違うか。ナスターシャだからか。『掟』に縛られ続けていたナスターシャ故の反動かもしれない。けど、だからといって、それで結論づけていいものか。とミュアブレンダはらしくなく優柔な思考に終始した。
「まあ、おかしくは……なっていないのでは? 恥ずかしいことですが私自身、恋愛というものに少し疎いところがあるのでハッキリと言えないのですが……それも、恋というものがもたらす一つの作用なのでは?」
 ナスターシャはまた枕に埋める顔を半分ほど起こす。
「……アカトキ、ハヤト、か。なあミュアブレンダ。ハヤトは私に惚れてくれるだろうか?」
「それはあなたの頑張り次第としか言いようがありません」
「う……そ、それはそうだが、頑張れと言われても具体的に何をすればいいのか皆目見当がつかんのだ」
「そこまで難しく考える必要もないかと思いますよ? 私の見た限りでは、アカトキさんは性欲にとても忠実な人間かと」
「わ、私に娼婦のマネをしろと言うのか!?」
 ナスターシャは勢いよく顔を上げた。
「平たく言えばそうです。ですが、それはあくまでも奥の手的な位置づけですよ? 起死回生の手段があると分かっていれば、焦ることも少なくなるし、何より、体の誘惑に弱いということが分かっていれば、そこを利用して崩しに掛かることも出来るはず」
「誘惑に弱いことを利用?」
「単純なことです。そそる女性に変わればいいのです。今のままでも、アカトキさんは十分あなたに魅力を感じていると思いますが、所詮それは世の男性があなたに感じている魅力と同質のもの。もう一押し二押しの、よりアカトキさん好みの容姿に変わる必要があると思います。アカトキさんだけの、アカトキさんだけに向けた魅力を構築するんです。――幸いなことに今日は一日ずっと、アカトキさんの明日の準備に付き合うことになってますから、その時にでも好みの女性について色々聞いてみるといいのでは?」
「な、なるほど。で、でも、たかが格好に変化を付けたところで、ハヤトの心は動くものなのか?」
「……それは何とも言えませんが、相手の持っている趣味嗜好の部分を攻めるのは悪くない方法だと思いますよ?」
 一時考え、考えを落ち着かせるとナスターシャはゴロンと仰向けになった。
「……お前が語ると説得力があるな。さすが『神』ということか」
「過信されても困ります。先ほども言いましたが、恋愛に関しては『神』だから絶対という導きは出来ませんよ」
「それでもだ。何一つ恋愛のイロハを知らぬ私からしてみれば、ミュアブレンダの存在は大変にありがたい」
 ナスターシャが寝ていた身を起こす。ようやくの起床。
「やれることからやってみるとするか。ミュアブレンダ。お前にはこれからも色々と助言を仰ぐことになると思うが、よろしく頼むぞ」
「それは勿論です。こうなってしまった原因を作ってしまったのは私ですから、求められれば、出来る限りの知恵をお貸しします」
「……そういやそうだったな」
 ナスターシャはベッドから降りると着替えのため、ドレッシングルームへと向かった。

 朝。窓の外の景色はまだ薄暗さが残っている。いつもだとまだ寝ているはずの時間帯。隼人は起きていた。予期せぬ携帯電話の着信音で起こされた隼人は上半身が裸のまま、備え付けられたテーブルに座って話をしていた。
「ん? ……ああ、ああ……ああ。そうだな……ははっ、そんなんじゃねーよ。馬鹿か、お前は。……いや、まあ、そうだけどよ……ああ……分かってるよ。まあ……そんなわけだからさ、まだ当分迷惑かけるけど、頼むわ。お前から何とか上手いこと言っといて。ん、マジ悪いけどな……ん、ああ……そんじゃまたな……ああ」
 通話を切った隼人は、何も表示されていないディスプレイをジッと見つめる。
 やがて溜め息を吐いた隼人は携帯をテーブルに置くと、イスに座ったまま背中を反るように大きく伸びをした。
 イスが後方にぐらつき、隼人は背中から床に崩れた。「いてっ」と一言言っただけで、隼人は倒れたままの体勢を整えることをせず、天井を無言で見つめる。
「何ボーッとしてんのよ。変なカッコのままで」
 ラルファが声をかけてきたが、隼人はそれでも無言で天井を見つめたままだった。
「……どうしたの? ……今、誰かと話してたけど、それが原因?」
「……ん。いや、別に何でもねーよ」
 隼人は立ち上がり、倒れたイスを起こすとテーブルの上から携帯電話を取りズボンのポケットへしまい込んだ。そのズボンは今まで隼人が履いていたジーンズから黒を基調にしたズボンに変わっていた。
「何よ、それ。気になるでしょ。言いなさいよ。一体誰と話してたのよ」
「うっせーなー。だから何もないって。いつもの妹だよ。いつもの妹からのいつもの行方探しの電話」
「妹? なんでその妹と話して、今回に限ってそんな変な感じになるのよ」
「だから何もないし、変になるって失礼な。ただ少しだけ、『なんだかなー』って思っただけよ」
「『なんだか』ってなによ」
「……お前ってホント細かいとこ気にするヤツだな」
 隼人は苦笑いを浮かべた。
「ま、別にいいけど。――ただ単に時間は普通に流れてるんだなって思ってただけ」
「どゆこと?」
「そのまんまの意味。オレが向こうに戻ったとき、周りは結構変わってるんだろうなって思ったの。コッチに来て経過した一ヶ月ちょっとの時間、やっぱり向こうも同じように進んでるんだなって、妹と電話してて改めて実感した。うらしま太郎状態ってやつか?」
「うらしまたろう? なにそれ」
「おとぎ話の主人公の名前。てか、おとぎ話って言葉、この世界にあるか?」
「……伝説的なもの?」
「伝説……っていうか、んー……創作話? ……まあいいや、面倒だから端折る。で、そのうらしま太郎って主人公。そいつがな、今回のオレみたいに別の世界、海の底にある竜宮城ってお城に行くんだわ――」
 隼人はソファに置いてある、昨晩この部屋に案内された時に、案内役の侍女から渡された、恐らく今隼人が履いているズボンとセットであろう、同じく黒を基調にした服二枚を手に取り肩にかけると、そのまま部屋の入り口である扉へと歩いていく。
「ちょっと、どこ行こうってしてるのよ」
「さーんーぽ。目が完璧に覚めたからな」
「うらしまたろうの話終わってないじゃない」
 自分の知らない世界の話が途中で、全てが聞けずに終わろうとしていることに、ラルファは不満気味だ。
「そんなもん歩きながらいくらでも出来るだろ」
 そう言って隼人は部屋を後にした。

 勝手知らぬ、まるで迷路のような廊下を気の赴くままに、おとぎ話の続きを話しながら隼人は歩いていた。
 途中、城内警備に就いてる衛兵に至る所で不審がられたりもしたが、皆、隼人の着ている服に目がいくと慌てて姿勢を正し一礼すると、自分の持ち場へと戻っていった。
 そんな中、話も終えようとした頃、窓の外に何かを捉えた隼人は、一歩二歩と通り過ぎた足を戻し、窓の外を見た。
 人の姿があった。
 大きな剣を一心不乱に振り回していた。それにはどこか魅入るものがあった。振り回す大剣に、逆に体が持っていかれて振り回される様も、流れに身を任せると言うのか、計算されているように見えた。
「――てな話。分かった?」
「へぇ……」
「うらしまの場合とオレとでは時間の流れ方が全然違うんだけどな」
「……隼人は、来て後悔してる?」
「まさか。たまにブルーになったりすっけど、それ以上に楽しませてもらってるよ」
 話すのもそこそこに、隼人の意識の殆どは外に向けられていた。何故? 知った人間だったからだ。一心に剣を振る男、それは鎧を脱いだスミノフだった。
「……ホント?」
 気持ちを探るような、不安の混じったラルファの声に、外に向けられていた意識も一時戻ってきた。
 もしラルファに姿があったなら、隼人は不安を払拭させる意味を含めて、その頭をポンと撫でていただろう。
「ウソじゃねーよ。しおらしくなっちゃって、らしくねーぞ」
「う、うっさいわね! なってないわよ。ふ、ふん、いいこと? 隼人は目的を達成するまでは元の世界には帰れないんだから。しっかり覚悟決めておきなさいよ」
「へいへい」
 隼人は肩を竦めてみせると、視線を窓の外へと戻した。
「? さっきから外ばっかり気がいってるみたいだけど、いったい何よ?」
 ラルファは隼人の視線の先を追ってみた。
「――あら、あれって昨日隼人がやっちゃったヤツよね」
「ああ、そうだな。……こんな朝早くから一人頑張ってるよな」
「そんだけ隼人にやられたのが悔しかったんでしょ。それも大勢が見てる前でだもの」
「……かもな。でも、昨日やったときと全然動きのキレ、早さが違うぞ? なんだ、あの無茶苦茶な剣捌き」
「そりゃそうでしょ」
 さも当然と言わんばかりの口調で言うラルファ。
「は? そうでしょって……お前、なんでか分かるのか?」
「彼、今は縛られてないもの」
「縛られてない?」
「そうよ。恐らく昨日装備していた鎧にでも、力を抑制する魔法が掛かってたんじゃない?」
「なんでそんなことしてんだ?」
「それは私には分からないわよ。本人に聞いてみなさいよ」
「いや、それはしないけど」
「それに、彼……今気付いたけど、ライカンスロープよ」
「ライ……カン? ……そ、それって、狼男か?」
「先天的なものか……それとも狼憑きなのか。……もし前者なら彼、相当なタヌキよ」
「タヌキってどういうことだよ」
 聞きたくもあり、聞きたくもない。妙に嫌な感じがした。
「もし、よ? もし彼が生粋のライカンスロープだとしたら、昨日昼間にやった彼を本当の彼と思わない方がいいわ。ライカンスロープが本気になったら、いくら隼人でも楽に勝てる相手ではないから」
「マジですか、それ。昨日あんだけ無様にやられてたアイツが?」
「そこなのよね。そこが少し引っ掛かるのよ。ライカンスロープって夜に力を発揮するものなんだけど、昼間もそれなりに力を出せるものなのよね。なのに、昨日の彼は一切力を見せる素振りもないままに隼人にやられちゃったでしょ? なんでかしら。力を見せられない理由でもあるのかしら。ねえ?」
 話を隼人に振るが当然の如く。
「そんなもんオレに振られても答えられるわけねーだろが」
「うん、ただ聞いてみただけだから。まあ何も分からないにしても、とりあえずは一応の注意は彼にも払っておいたほうが良さそうね」
 喰人に始まり、昨日のライラック、そしてスミノフ。紋章憑き以外にも一筋縄ではいかないような奴らがゴロゴロといることに隼人は辟易とした。しかもまだ、世界に名だたる四つの大国の一つに来たに過ぎないというのに。どうやら前途は多難に満ちているようだ。

 部屋に戻ってきた隼人は、それからしばらくして部屋に運ばれてきた朝食を取っていた。
 期待していた朝食だったのだが予想外に、質素とまではいかないが、普通クラスのホテルが客に出す普通な朝食だった。パンが三切れに、少し濃いめのポタージュ、何の動物か分からない肉を加工したハムのようなもの。そして色取り取りの野菜サラダ。
 隼人はパンを千切ってはポタージュに付けて口に入れる。黙々とそれを繰り返す。
 味は……美味しいと思う。今は味を楽しむ余裕がなかった。昨日から何も口にしていなかったから、何よりも空腹を解消するのが大事だったのだ。
 サラダを残して一通り平らげた頃、部屋のドアがノックされた。返事を待たずに部屋に入ってきたのはナスターシャであった。
「……む。食事中だったか、悪い。出直そうか?」
「いや、別にいいよ……ん」
 隼人は指先についたポタージュを啄むようにして舐め取り、最後のサラダをかき込むと水を口に含み一気に胃に流し込んだ。ラルファは一言「下品ね」と呟いた。
 胃の中はまだ満足していないのだが、それなりに空腹感は解消された。「ごっそさん」と一息ついたところで、隼人は立ち上がるとナスターシャに声をかける。
「そんじゃ、行くとしますか」
「なんか急かしてしまったようで悪いな」
「気にすんな。オレが勝手に急いだだけよ。そしてオレは早食いが得意だ」
 何て言って返せばいいのか。ナスターシャは苦笑した。

 部屋を出た隼人とナスターシャは肩を並べるようにして廊下を歩く。
 早朝の静かな廊下とは打って変わって、多くの衛兵が廊下を歩き。将軍と肩を並べて歩く余所者――隼人に、昨日の騒動を生で見たもの見ないものが抱く感情に相違はあるにせよ、周りは動揺の色を濃くさせ、隼人の着ている服に気付いた衛兵達が俄に色めき立ち始める。
「なあ」
「? なんだ?」
「なんで、こいつら……みんなこっちばっか見てんだよ。こんな見られたら落ち着かねーんだけど」
「『こっち』ではなくてお前を見てるんだろ。ほら、ここ」
 ナスターシャは歩きながら自分の着ている軍服の立て襟を指差した。
「金のラインが横に三本入ってるだろ?」
「ああ、でもそれが?」
「これは私が『将軍』だということを示しているんだ。二本だと『副将軍』。一本だと『旅団長』となる。そして――」
 突然、ナスターシャは隼人の首へと手を伸ばす。条件反射で咄嗟にその手から逃げようとするが、あっさりと襟首を掴まれた。
「な、なんすか?」
「ほら」
 ナスターシャは隼人の襟足を起こすと、クンと軽く引っ張り隼人から見えるようにしてやる。
「――わぁ、三本入ってるーびっくりだー」
 言葉が棒読みになる隼人。黒色の生地に金色の刺繍がよく映えていた。
「と言うわけだ。お前も将軍として扱われてるんだ。知らぬ人間がいきなり『将軍』とくれば注目も集まるというものだ」
「いやいや、何勝手にそんなことしてくれちゃってんの」
「詮索されるような深い意味はないぞ? お前に良い待遇を与えるのに、一番手っ取り早い方法を取っただけだ。高い身分を得れば、お前も何かと動きやすいだろ?」
「……いや、うん、まあ、言ってることはよく分かるけどさ。それならそうと、なんで昨日この服をオレに渡す時にでも言わないのかね。侍女失格だろ」
 ナスターシャは笑う。
「あまり悪く言ってやらんでくれ。昨日お前を部屋に案内した侍女は私のとこの人間なんだ。私の隊の女性は少しばかり男が苦手でな、おそらく緊張していて伝えるのを忘れていたんだと思う」
 隼人は昨夜を思い出す。……確かに、案内役の侍女は部屋へ案内中ずっとオドオドしていた。隼人を部屋に案内するなり、侍女は胸に抱えていた服を隼人に押し付けるように渡すと何も言わず一目散に廊下を駆けていったのだ。
「あれは緊張とは言わんだろ。拒絶だ拒絶」
 ナスターシャから「はは……」と乾いた笑い声が漏れる。笑って誤魔化すことしか出来なかった。

 廊下の突き当たりまでやって来た。扉が一つ。左右に立つ衛兵が姿勢正しく二人に向かって敬礼すると、急いで扉の鍵を開ける。。
「ここは?」
「保管庫だ」
 衛兵によって扉が開かれる。二人が部屋の中へと入る前、ナスターシャが衛兵の一人に何やら一言二言声をかける。衛兵は聞き終わると敬礼し、どこかへ走り去っていった。

 二人が入った部屋、隼人は圧倒された。そこはテーブルが一つだけに、壁一面にありとあらゆる武器類、防具類がズラリと掛け並んだ武器防具部屋であった。
「得意とする武器はなんだ? やはりオーソドックスに剣か?」
 部屋に入るなりナスターシャが、そう声をかけてきた。
「私は突撃槍(ランス)なんだが、どうだ? ランスも悪くないぞ?」
 そう言うとナスターシャは壁に立て掛けているランスを手に取る。
 ……冗談だろ。でかい。大半が柄で構成される槍と違い、先が鋭く尖った円錐形のフォルム。こんな武器に、馬の重量、そして走力が加われば、どのような強固な鎧を持ってしても防ぐのは難しいのではないだろうか。
「いや、いい。そもそもオレ武器とか使ったこと無いし」
「なんだ。ガイナと一緒か、つまらん」
 残念そうに手に持ったランスを元の場所に戻したナスターシャは、壁に掛けられたガントレットを物色し始める。
 本来、甲冑防具の一部であるガントレットは指の先まで金属類で覆われる。しかし、この部屋に保管されるガントレットは防具だけではなく、武器として扱われるガントレットも保管されており、そのどれもが特徴として固い拳を作れる仕様になっている。隼人の世界でいう格闘家が着ける、指を露出させたオープンフィンガーグローブに鉄素材を散りばめたような感じだ。
 幾つかの候補を選んだナスターシャが、それを胸に抱えて戻ってきた。
 ナスターシャは木のテーブルの上にガントレットをドサッと下ろすと「近くに来い」と手招きして隼人を呼び、手を出せと要求する。従う隼人。開いて突き出された手にガントレットが通される。思ったより軽い。
「拳を作ってくれるか」
 言われて、隼人が拳を作ると、ナスターシャが手首、手の甲に付いたアジャスターを引いて締め付ける。サイズが合わないのか、締め付けてるような感触は薄く、若干の違和感があった。
「どうだ? 緩いか?」
「ちょっと……大きいかもな」
 ナスターシャは手早くガントレットを取り外すと二つ目のガントレットを取り付ける。
「――一回、全部試してみてよう」
 取り付ける作業をしながらサラッと言うナスターシャ。
 隼人はテーブルの上を見た。ガントレットが四つ。次に壁を見た。……ひと目では把握出来ない数のガントレットがあった。
 かなり長くなりそうだと覚悟を決めた。

 案の定長引いた。決めた。と言うか、根を上げてギブアップした格好だ。
 二十二個目までは覚えている。それからは数えるのをやめたから覚えてないが、相当な数の試着をこなした隼人は、次に一番、違和感の少ないガントレットに当たればそれに決めようと思っていた。それが、いま手に装着したガントレットだ。幸いなことに違和感が少ないどころか、違和感がなかった。ジャストフィットだ。

 その後、「気に入る物があれば好きに持っていっていいぞ」と言ったナスターシャは出し散らかしたガントレットを片付ける作業に入った。
 言われた隼人は気ままに物色し、そして選んだのは鋼鉄製のレガース(すね保護具)が取り付けられた靴だった。
 靴を履いた隼人。自分の足がまるでガン○ムみたいな重厚な足になり「……か、かっけー……」と呟いた。
 と、まあやることも終え、手持ち無沙汰になった隼人はナスターシャを見る。将軍様という身分でありながら、せっせと片付けに精を出していた。見た様子、どうやらまだもう少し時間が掛かりそうだ。
 と、なれば……
 隼人は部屋の隅へと視線を移した。別の部屋へと続くらしきドアがあった。
 入ってみようか? ここにいても暇を持て余すだけだ。
「なあ、隣の部屋って何があるんだ? オレが入ってもいいのか?」
「ん? 別に構わんが、これといってお前の必要な物は置いてないぞ? 兵が着る制服の予備がおいてあるだけだ」
 隼人は『制服』の部分に敏感に反応した。もしかしたら、有意義な時を過ごせるのではないだろうか。期待が膨らまずにはいられない。
「ふっ……やれやれだ……行くしかねーよな」
 いざ、向かうことにした。
 途中。
「ラルファ、いるのか?」
 思い出したようにラルファを呼んだ。
 それに対してのラルファからの応答は無かった。寝ているのか? 隼人にとって、それならそれで好都合。邪魔者がいなくなって、今からの行動が格段にやりやすくなるってなもんだった。

 奥の部屋。入った隼人は色々と見て回るが、これと言って気を引くような物品は見つからず、当てが外れた格好だった。制服はあった。ミリーナ、そして風の隊が着用するスカート丈の短い制服だ。見つけた時、胸躍るものがあったがそれも一瞬だ。制服を手に取った隼人には空しさだけが残った。着る人間がいないと意味が無い。一回も袖を通していない制服だけで『ハァハァ』できるほどに、そこまで隼人は変態の境地に達していなかったし、またそれは隼人の目指す変態道からは大きく一線を画していた。
 しかし、そんな隼人の手には大きなカゴが。カゴの中には布らしき生地で出来た『何か』がギュウギュウに詰め込まれていた。
 どうやらこれがこの部屋で得ることの出来た唯一の成果、収穫のようだ。
 元いた部屋に戻った隼人は、片付けられ何もなくなったテーブルの上にカゴを置いた。
 丁度、片づけを終えテーブルの傍まで寄ってきたナスターシャがそのカゴの中を覗き見る。
 カゴに詰め込まれた大量の『アレ』にナスターシャは目をパチクリさせた。
「お、おま……こんなものをこんなに集めて、一体どうするつもりだ?」
 ナスターシャはカゴの中から適当に掴んだ『アレ』を引っ張り出す。スルルと伸びた細長い布生地。『何か』の正体は長尺の靴下であった。別名、ニーソックス。
 愚問を。と、隼人はフッと鼻を鳴らした。
「どうするも何も、履くに決まってんだろ」
「は、履くってお前、何を言って……これ女性用だぞ」
「んなこと分かってんよ。いつオレが履くって言ったよ。お前が履くんだよ」
「な、なんで私が!?」
「なんでも何も、オレがニーソ好きだからに決まってんでしょーよ。ほらっ」
 手に取ったニーソックス。略してニーソを、押し付けるように渡してくる隼人。
「さあ」
「な、何が『さあ』なんだ? ……え? もしかして今、履くのか?」
「あったり前だろよ。ほら、早く! 早く!」
「は、早くって……」
 熱意の籠もった強い押しに、少しばかり顔が引きつるナスターシャ。なぜ、『こんなもの』一つにここまで必死になるのか理解が全く出来なかった。『好き』って、何が?
 そこに、ミュアブレンダが入ってきた。
「これはポイントを稼ぐチャンスかもしれませんよ」
「チャンス? 一体何がチャンスだと言うのだ? ちょ、ちょっと、悪い」
 ナスターシャは隼人から少し離れるとヒソヒソと会話を始める。
「これは、あなたは知らないと思いますが、『長尺靴下愛好会』なるものが発足されるほど、一部の男性の間には長尺靴下を履いた女性が人気なんです」
「そ、それは本当か? 初耳だな。……で、もしかして」
「ええ。恐らくアカトキさんも同じ部類の男性かと思います」
「な、なるほど。しかし、どうしてこんなものを履いた女性が人気になるのだ? 理解しがたいな」
「それは私にも分かりかねます」
「おい。いつまでヒソヒソ話続けてんだよー」
 気になるのだろう。しびれを切らした隼人が声をかけてきた。
「では私はこれで」
 ミュアブレンダはそう言うと気配を消し、ナスターシャは隼人の元へと戻った。
「相手、ミュアブレンダだよな?」
「ん? あ、ああそうだ」
「何話してたんだ? 聞かれちゃ困るような内容なのか?」
「いや……別に、困ることはないのだが……まあつまらぬ話だ。お前が気にするような内容ではないから気にしなくていいぞ。……さて」
 ナスターシャは手に持ったニーソックスに視線を落とす。
 黒色生地のシンプルなデザイン。どこからどう見てもただの『靴下』でしかなかった。
『靴下』だろ? これを履いたところで何がどうなると言うのだ? ブーツに隠れて見えないが、ナスターシャは今も普通に『靴下』を履いている。
 そうだ。じゃあ、なにもこの手に持った『長尺靴下』を履くまでもなく、ブーツを脱いで、今履いてる靴下を見せればいいのではないのか? 
 ここでミュアブレンダの言葉が頭にリフレインされる。
『長尺靴下愛好会なるものが発足されるほど、一部の男性の間には長尺靴下を履いた女性が人気なのです』
 もしかして、『長尺』靴下でないとダメなのか? 長いのと短いのとで違いがあるのか? そもそも……男性側からしてみれば……露出が多い方が嬉しいものではないのか? 長尺靴下を履いてしまえば太股の部分が少し見えるだけになってしまうぞ? ……違うのか? いや、私は断じてそのような不埒なことを考えて脚を晒しているわけではないぞ?
 ……ううーむ……考えても仕方ない……か。ナスターシャは事を進めることにした。
「……これを履けばいいのか?」
「是非とも。そして今すぐにでも! お預けを喰らってる犬の気分なんだよ」
「そ、そんなにか!?」
 す、すごいな。何がすごいのか分からないが、ナスターシャはすごいと感じた。そして、今ものすごく隼人に必要とされているように感じている。
「し、しかたないヤツだなぁ……。お前が、そ、そんなにまで言うのなら……は、履いてやろう」
 若干頬を赤く染め上がらせたナスターシャは、演技みえみえのヤレヤレといった感じの乗り気でない表情を見せながら、無いイスの代わりにテーブルの上へ腰を下ろす。その重みで木製のテーブルは軋んだ音を立てた。
 テーブルの上に片膝を立てたナスターシャはブーツのバンドを一つ一つ外していく。
 短いスカートで片膝を付こうものならば、どうなるかは容易に予想出来るものだが、ナスターシャは全く気にした素振りを見せない。
 薄い青か、と隼人にあっさりとスカートの中を見られても――
「あ、あまりマジマジと見るな。恥ずかしい」と、言うだけで隠そうともしない。
 恐らく、こんなにも短いスカートを履いている以上、下着が見えてしまうことについては割り切っているのだろう。戦場に立てば、もはや見えるってレベルじゃねーぞって状態だろうし……。もしかしたら、見せてもいい下着なのかもしれない。
 片方のブーツを脱ぎ終わったナスターシャは、それを自分のすぐ横、テーブルの上に置き、もう片方のブーツを脱ぎに掛かろうとしたとき。隼人の手がニョキっと伸びてきた。
「ん? なんだ?」
「それ邪魔だろ。持っててやんよ」
「え? これか? いや、別に邪魔ではないぞ」
「いいからいいから。人の好意は素直に受け入れるもんだろうよ。ほら、持っててやんよ」
 ものすごく『いい人』っぽい表情で言う隼人に、どうも嫌な感じがしたナスターシャだったが、ここは好意を受け入れることにした。
「じ、じゃあ持っていてくれるか?」
「まかせとけ」
 何が、まかせとけ、なのかよく分からないが、考えても仕方ない。残りのブーツを脱ぐことにした。ナスターシャはブーツのバンドを手際よく外していく。
 スーーーーーーーーーーーーーーッ
「!?」
 ナスターシャは慌てて隼人を見た。
「おまえ……今。もしかして……嗅いだんじゃないのか?」
「か、嗅いでない。嗅いでないスよ」
「じゃあ、今の思いっ切り息を吸い込むような音はなんだ?」
「し、深呼吸じゃないスかね?」
「『すかね』? お前が深呼吸したんじゃないのか?」
「あ、ああ。そうそうオレが今深呼吸したんだった。スーハースーハー」
「そんな音ではなかったがな」
 ジトッとした目で睨むように見るナスターシャに、一瞬たじろぐ隼人。
「な、なんだよその目は。疑ってんのかよ? はっ! 最低だな。好意で持っててやった人間を疑うなんてよー! そんな女だったのかよ、お前って。マジでガッカリだよ」
「い、いやそんなつもりは! 疑うっていうかだな! その……違うんだ!」
 惚れた者の弱みというのか。隼人が見せた突然の剣幕に――明らかに逆ギレなんだが――ナスターシャの血の気がサッと引いた。
「あーうっせうっせ。言い訳なんか聞きたくもないわ。それじゃあ、一つ聞くけどよ。もし、もし仮にオレがお前のブーツを嗅いだとしようか。いいか? 仮にだからな? でも、それで何か問題が出てくるのか? 嗅いだことによって誰かが死んだり、世界に異変が起こったりするってのか? 何も起こるわけないよな? だって、ブーツの匂いを嗅いだだけだもんな」
 ナスターシャは黙る。突っ込みたいが黙る。
「それによ。お前はどうなんだ? お前はオレにブーツの匂いを嗅がれて嫌なのか? オレのことを変態だと思うのか? それは違うんじゃないのか? 少なくともオレは違うな。オレは気になる女性の匂いが堪らなく気になってしょうがない。分かるか? オレはお前のことが気になる存在だからブーツの匂いを嗅ぐんだからな。そんなオレに、お前はブーツを嗅がれて嫌な気持ちになるってんだな? もう一つ言っておくけど、お前が許すなら脇だって容赦なく嗅ぐからな」
「わ、脇って……!」
 恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤に染め上がらせたナスターシャは自分の体を抱きしめる。条件反射的に脇をガードしたっぽい。
 明らかに何かがおかしい。何かがずれてる。しかし今のナスターシャには、それに対して突っ込みを入れる勇気は無かった。
「どうだ? ナスターシャ。お前はオレにブーツの匂いを嗅がれて嫌なのか? それとも嬉しいのか? どっちなんだ?」
「わ、私は……」
 ナスターシャは答えに詰まる。嫌だとはっきり言えない。言えば間違いなく隼人に嫌われると恐れる自分がいる。隼人が好きだから、と不浄な部分を露わにしたくない、拒絶したいナスターシャに。隼人は不浄な部分を露わにしろと強要してくる。
 許すのか? 許して良いのか? 結果だけを考えれば『許す』ことが最善な策なのだろうが、それによって人間として持っていなければならない、とても大事なものを失ってしまうのではないかと考えてしまう。強烈な羞恥に激しい興奮が相極まってナスターシャの目が涙ぐむ。
「自分の気持ちに素直になってみろ。いいか? 今からオレはお前の素直な気持ちをさらけ出させる為に、お前のブーツの匂いを嗅ぐ。いいな? 嗅ぐからな」
 止めろ。の言葉が出ない、唇が戦慄き震えるだけで、その短い言葉が出ない。
 隼人は真剣な表情で、ナスターシャを見つめながら、手に持ったブーツを超ゆっくりと見せ付けるようにして顔に近づけていく。
「ぁ……や、やめ……あ、あっ……ぁ……ぃや……」
 ……誰がどう見ても、どっからどう見ても、変態にしか見えない。
 ピタリとブーツの挿入口に顔を、鼻を付ける。隼人が見せる真面目な顔が一言で言って、シュール。とんでも無く間抜けな構図である。
 血液が顔面に集約したかのように真っ赤になるナスターシャ。顔が熱いなんてものではない。茹で上がり、熱でのぼせ視界が朦朧とする。
 そして、隼人は、吸った。目一杯吸った。嗅いだ。これでもかと言わんぐらい嗅ぎまくった。
 やがて隼人は静かに目を閉じた。静かに静かに匂いを嗅ぎ、小さく頷く。角度を僅かに変えては嗅いで、頷く。その姿はまるで最高級ワインをテイスティングするかのように堂々としたものであった。
 まあ……ナスターシャにしてみれば、真剣に嗅がれれば嗅がれるほど死にたくなるだけなのだが。隼人が一々見せる、その道? のマスターだと思わせるような威風ある堂々とした仕草が徹底的にナスターシャを辱める。精神が犯される。何度心の中で『止めてくれ!』と叫んだか。
 堪能し尽くした隼人はゆっくりとブーツから鼻を離すと息を吐き、閉じた目を開いた。
 実に爽やかな笑みをナスターシャに向けた隼人は親指を力強く立てて見せた。
「文句なしだ。合格」
「な、な、な、何が合格だ! も、もう満足しただろ! 返せっ!」
「うおっ……と」
 ナスターシャは素早く手を伸ばし、引ったくるようにしてブーツを奪い取った。
「おいおい、何そんなに怒ってんだよ。褒めてやってんだぞ? もっと嬉しくしろよ」
「ううううるさいっ! そんなものいくら褒められても嬉しくないに決まっているだろ! は、恥ずかしいだけだ……」
「ホントにかぁ?」
「本当に決まってるだろ! あ、あまりの恥ずかしさで頭が変になりそうだ」
「ホントのホントに?」
「……し、しつこい!」
「オレはこの匂い好きだぜ? 多分……今までで一番好きな匂いだったぜ?」
「…………い、一番? ……ほ、ホントか?」
「ウソ言ってどうすんだよ。ま、でも……お前がそんなに嫌がるなんてな。なんか……悪いことしちまったな、オレ。悪かった。そんなつもりじゃなかったんだ。純粋にお前のブーツの中の匂いを嗅ぎたかっただけなんだ。ははっ……ちょっと調子乗りすぎたのかもな」
 表情を曇らせた隼人は反省? の言葉を口にする。微塵も思ってもないことだが。
 そして、そんな隼人の演技に単純に騙されたナスターシャは慌てる。
「い、いや! ち、ち、違うぞ!? ……い、嫌とかそんなんじゃないんだ。ただ……うむ、恥ずかしかっただけなんだ。そ、それにだな。……なんだ、その……怖いってのもあったんだと、思う。お前が如何に……ほら、その……に、匂い好き? 気になる? って言っても……お前の思っていた匂いと違っていたりでもしたらと思うと……。で、でも、どうやらお前は気に入ってくれたようで……い、一番と言ってくれて……良かった。だ、だから、そんなに落ち込まないでくれ」
「……ありがとうな。そう言ってくれると救われるよ。さっきはついカッとなって最低な女だとか口走っちまったけど……やっぱお前は優しくてイイ女だ」
「は、ハヤト……」
 キュンと胸がときめいたナスターシャは初めて隼人のことを、『お前』ではなく『ハヤト』と呼んだ。

 その頃、部屋の外では――
 ナスターシャに小さな使いを頼まれて戻ってきた衛兵と、守衛として残っていたもう一人の衛兵が上と下とで並び立つ格好で、僅かに開いた扉の隙間から中の様子を覗き窺っていた。
「こ、これ、中に入っても良いのか?」
「うーん……もう少し間を開けてから入った方が良いかもな」
「だ、だよなだよな!」
「な、何嬉しそうに言ってんだよ。……つうか、あそこにいる女性、誰だ?」
「誰だ、も何も……普通に考えてナスターシャ様しかないだろ」
「いや、それは分かってるつもりなんだけどよ……まるで別人だろ」
「……なんか見てはいけないようなものを見てしまった気がするんだが」
「どうする? 一旦閉めた方がよさそうじゃないか?」
「いやいや、何言ってんだよ。も、もう少し見てようぜ」
「い、いいのかよ。もし気付かれたりでもしたら……ヤバイんじゃね?」
「そ、それは分かってるんだけどよ……見たくないか? ナスターシャ様が長尺靴下を履いたところ」
「は? い、いやオレは別に。え? なに? お前、もしかして『長尺靴下愛好会』とか入っちゃってたり?」
 上で、部屋の中の様子を窺ってる衛兵が視線はそのままに頷く。
「……会員番号一六七九番だ」
「……」
 呆れてものが言えない。何に呆れたか。一六〇〇という、その数に呆れていた。
「あの男、ナスターシャ様に長尺靴下を履かせようものなら……とんでもない功績を残すことになるぜ。そしてオレは、その歴史的瞬間に立ち会えるかもしれねぇんだぜ? ……や、やべぇ……そう思うと興奮してきたぜぇぇ」
 たかが靴下に……頭おかしいんじゃねーか。爛々とした目をした衛兵の下で、座りながら部屋の中を覗き見る衛兵は、心の中でそう呟いた。この衛兵はなぜ口に出さなかったか。言えなかったのか。
 その言葉を口に出せば、それは『長尺靴下愛好会』全会員に、会長に向けたも同然なのだから言えなかったのだ。特にその会長とやらが、この衛兵には重要であった。
 その会長の名は――二人の上官であり、謎の関西弁を喋る男……火の副将軍、ライラック・ワードナーであった。
 謎の関西弁。火の副将軍。アルベセウスとの意味ありげな会話。そして――『長尺靴下愛好会』会長ときたものだ。ライラック・ワードナー。実に謎多き人物である。

 ナスターシャは新品のニーソに足の先を差し入れる。たかが靴下。履くことに対しては躊躇することもなく、抵抗もない。もしあるとすれば、それは別な意味で……ナスターシャはちらりと隼人を見た。
 この男には遠慮というものが、配慮というものがないのだろうか。潔いほどまでにガン見だ。見られれば見られるほど恥ずかしさが増していくナスターシャはニーソを一気に履き終えるとブーツを履き直した。
「こ、これでいいのか?」
 ナスターシャはテーブルから下りて、恥ずかしそうに隼人に見せる。
 白魚のように美しい脚に黒ニーソという魅惑のコントラスト。黒ニーソの艶生地が少し食い込んでほんの少し沈んでいる太股。ニーソとミニスカートが繰り出す魅惑な領域。そして極うっすらと黒ニーソから透けて見える白い肌。
 スリムよりムッチリ感を好む隼人。その隼人が望むこと全てを満たした究極形態がそこにあった。しかもブーツときたもんだ。まさか異世界でニーソブーツが拝めるとは夢にも思ってなかった隼人は感無量。顔を綻ばせる。
「イイ! マジでイイ! マジですっげ似合ってる!」
「そ、そうか? 私には今イチよく分からんのだが……ただの長い靴下だろ?」
「ちっがーう! ニーソだ。ニーソックス。正しくはオーバーニーソックス。さっらーに! お前の履いてるニーソの長さからして、そいつはサイハイソックスとも言われている。まあぶっちゃけ纏めてニーソでよろし」
「ニーソ……サイハイ? なんかお洒落な呼び方をするんだな。初めて耳にする呼び方だ」
「そうなのか? じゃあ、こっちではニーソのことなんて言うんだ?」
「普通に長尺の靴下と言ってるが?」
「長尺て……ロマンもへったくれもないな。ま、いいけど。これからは長尺とは言わずにニーソでよろしく」
「それは別に構わんが。……それじゃあ、もうこれは脱いでもいいか?」
「は? なんで脱ぐ必要があるんだよ。そのまま履いとけよ。つか、これからお前はニーソ常時着用決定だかんな? そこんとこよろしく」
「は? な、なぜお前がそんなことを決める!?」
「さっき言っただろ? オレがニーソ好きだからに決まってんだろが」
「理由になってないぞ!」
「何言ってんだよ。歴とした理由だろ。……しゃーねぇなぁ、もう少し分かりやすく説明してやるから、これで理解してくれよ? いいか?」
 ナスターシャは頷く。
「オレは、ニーソが、大っ、好きだ」
「…………」
 隼人がそう言ったきり、部屋はシンと静まり返った。黙って聞く立場であるナスターシャはその先を期待するが、得意顔を作る隼人を目にした瞬間、その頭に疑問符が浮かんだ。え? もしかして終わり?
「う、うむ。それはもう分かった。で?」
 ナスターシャは堪らず先を促した。
「『で?』とは?」
 隼人は問いに問い返す。
「いや、だから説明とやらは?」
「は? 言っただろ。オレはニーソが『大』好きなんだって。好きから大好きに表現が変わってたろ」
「……お前は私をバカにしてるのか?」
「バカにしてねーよ。ホントにニーソが好きなんだからしょうがねーだろよ。ま、一応付け加えておくけど、ニーソは履く人間がいて初めて輝きを放つんだぜ? しかも履く人間によってその輝きは大きく変わるんだ。分かるか? 要するに、いくらオレがニーソ好きだからって誰彼構わず強要させるほど節操無しじゃねーんだよ」
「……む。それはつまり……?」
「ことごとく言わせるやつだな。お前だからだよ。お前に履いてほしいんだよ。お前こそがオレの追い求めていた理想の形なんだよ!」
 自分でもやりすぎ感を抱いてしまうほど、雄弁を振るう隼人。
 気恥ずかしそうにナスターシャは視線を逸らす。
「……さ、最初からそう言ってくれれば私も別にな。そうか、そんなにか……」
 ナスターシャは視線を下げると、改めてニーソを履いた自分の脚を見た。隼人に理想と言われた自分の脚。
 さっきまで何とも思っていなかった自分の脚。それがどうだろう。
「そうか、理想か……そうか。うむ……ふふふ……そう言われると悪い気はしないな」
 ナスターシャの表情のなんと嬉しそうなことか。自分の知らぬうちに、女の子らしい可愛い笑い声が漏れていた。
 そんなナスターシャを見ていた隼人は思った。
 こいつって、ホント単純なんだな、と。……勿論、良い意味で。

 部屋に扉を叩く音が響く。
「失礼します」
 恐らく、あれからずっと扉の隙間から中の様子を窺っていたのであろう衛兵の二人が、頃合いを見計らって部屋の中に入ってきた。扉を閉めた衛兵は敬礼をすると、一人は扉の前に残り、もう一人の衛兵が駆け足で隼人とナスターシャの下へとやってくる。
 ナスターシャの前に立った衛兵は軽く会釈すると小脇に抱えた木箱を差し出し、箱を開けて見せた。
 箱の中には一着の黒衣がキレイに折り畳まれて収まっていた。
「うむ」
 ナスターシャは黒衣を手に取ると両肩口の辺りを掴み、上から下へと伸ばしてみせる。
 それはガイナが着ていた丈の長い黒衣に似ていた。
 肩には王国紋章が刻まれた銀のプレート。襟には将軍格を示す三本のゴールドライン。
 黒衣を纏うガイナに、赤衣を纏うアルベセウス。先の二人とは違い丈の短い青衣を纏うナスターシャ。三者それぞれに、背中には『三神』を意味する『トライアングルフォース』を象ったエンブレムが縫い描かれているのだが、今ナスターシャが手にする黒衣は違う。背中には『トライアングルフォース』エンブレムではなく、『銀剣』。
 王国エンブレムに重なるように、柄を上にして垂直に立つ銀剣が縫い描かれていた。
「あ、あの……本当にこのお方でよろしいので? ……その黒衣は――」
 思うことがあったのか、思いすぎたのか、横にいた衛兵の口から思わず口をついて出てしまっていた。
「余計な心配はいらぬ。姫様の許可は既にもらっている」
「! そ、そうでしたか。こ、これは失礼をしました」
 誤って粗忽を働いたことに気付いた衛兵は慌てて直立に姿勢を正し、無礼を詫びる。
 気にした様子もなく聞き流したナスターシャは、持っていた黒衣を隼人に差し出した。
「オレ?」
「そうだ」
 ナスターシャの手から隼人の手へと移った黒衣。近くで見ると所々に傷んだ箇所があった。それは、この黒衣が以前誰か他の者が着ていたと予想させるに十分であった。
「――リゼルハイン・ガウスバーク。六年前にこの城を去った者の……そしてその黒衣を所有していた者の名だ」
 隼人が問おうとするよりも先に、ナスターシャが答えを口にした。
「リゼルハイン?」
「ああ。私達『三神』とは一線を画した将軍でな。私達が『三神』に就く前――一時期『三神』のうち『巨』と私の持つ『風』が空位となった時期があったんだ。今も昔も争いが止まぬ時代だ。そんな時に『三神』が空位ともなれば他国の格好の餌食というものだろ? 事実、まるで申し合わせたかのように、他国からの侵略行為が一斉に強まったのは間違いない。その落ちた戦力を補うために、外部から戦力となる者を早急に招致する必要があったんだ。情けない話だがな……」
「それがリゼルハインってやつか?」
「そうだ。リゼルハイン・ガウスバーグ。金で雇われた将軍、そして最強属性の一つ『雷の紋章』を持つ者だ」
「へぇ……やっぱ強いんだろ?」
 分かりきったことなのだが、聞かずにはいられなかった。
「ああ、強いな。バティスガロのサイ……いや、もしかするとバティスガロの暴君、ザンドレッド・ルドリフスに匹敵するかもしれん」
 自国の将軍ではなく、敵国である将軍を引き合いに出す辺り、相当の強さなのだろう、と思わせる。――ああ、やっぱりね。またですか。黒衣へと目を落とした隼人はまた辟易とした。『竜』の最強って言葉が懐かしくも空しく隼人の胸に響いた。

「――これでいいか?」
「いいじゃないか。よく似合ってるぞ」
 袖を通せと促され、仕方なしにと黒衣を纏った隼人。褒められたにも拘わらず、その表情はどこかスッキリしたものではなかった。
「どうした? 浮かない顔をして」
「でもオレなんかでホントにいいのか? なんつーか、荷が重く感じるんだけど」
「なんだ、そんなことか。気にするな。偶々、お前の前にリゼルハインが所有していただけであって、元々その黒衣は、臨時や代行として将軍に就いてくれた者のためにと誂えていたものだ。『将軍』という格以外に、お前が思ってる程に重たく価値のあるものではないから安心しろ」
「そうなのか? まあ、そうだとしても……こんなのを着せられた以上は――」
「それなりに結果を求めてると言うことだ。期待しているからな」
「だよなぁ……はぁ」
 にっこりと笑うナスターシャに、隼人は溜め息が漏れた。ナスターシャはそれを見ても笑ったままだった。
「――さてと、大まかな準備はこんなところか。どうだ? 何か気になるようなことはあるか? あるのなら今のうちだぞ」
「……いや別にない。はぁ……そんじゃもう戻ってもいいのか?」
「そうだな……別にこれといってないし……ん、いいだろう。それじゃあ明日、今日と同じ時間でお前の部屋に迎えに行くから、それまでにきっちりと準備を整えておいてくれ」
「あいよ。そんじゃ出るぜー」
 そう言うと隼人はテーブルの上のニーソが詰まったカゴを手に持った。
「お、おい。それをどうするつもりだ? もうお前には無用なものだろ」
 隼人は無言でカゴに手を入れると、二足、ニーソを取り出しナスターシャに差し出す。
「これ、替えのやつな」
「え、あ、う、うむ……って、い、いやそうじゃなっ――」
「そんじゃ明日なー! ばーいっ!」
「え? お、おいっ! ちょっ!」
 ナスターシャの言葉も途中に、隼人はカゴを抱くようにして一目散に部屋を飛び出していった。
 部屋に残されたナスターシャと衛兵。
「そ、それでは私も失礼させていただきます」
 衛兵はナスターシャに向かって敬礼すると急ぎ足で戻っていく。
 途中、衛兵の足が止まると、衛兵は振り返る。
「? どうした? 何か?」
「そ、その長尺靴下……とても似合ってます! し、失礼します!」
 相当の勇気がいったのだろう。顔面を真っ赤にした衛兵はすごいスピードで部屋を飛び出していった。
 最後、部屋に一人残されたナスターシャ。
「……い、一体なんなんだ?」
 シンと静まり返った部屋で、ナスターシャはニーソを摘んで引っ張って離す。小さくパチンと音がした。今度はニーソと太股の間に指を差し入れグイーッと伸ばした。
「……こんなもののどこが良いのやら……ふふふ……男ってやつはつくづく変な生き物だ」
 指を離した。またパチンと音がした。
 赤時隼人か。かなわんやつだな、ホントに。ナスターシャは一人また「ふふふ」と笑っていた。

 ――その日の晩。
 等間隔に火を灯されただけの薄暗くなった廊下を、まばらに衛兵達が歩く。その中に紛れて、隼人の歩く姿もあった。
 保管庫から出た隼人は、それから一度も自分の部屋には戻っていなかった。
 昼飯も、恐らくもう部屋に用意されているであろう夜飯も食わずに、隼人はカゴを持ったまま、城の中をせっせと行ったり来たりしていたのだ。
「――ねえ、流石にもういいんじゃないの?」
 呆れた口調でラルファが言った。実はこの言葉を口にするのは三回目である。
「アホか。最後の本命を残したまま終われるかってーの」
「……あそーですか。もう好きにしてちょうだい。私は先に休ませてもらうわ。変態に付き合うのもいい加減ウンザリだわ……」
「誰も付き合ってくれなんて言ってねーだろが。イヤならどっか行けばいいだろが。ったく……まさかお前が起きてて覗き見してたなんて思ってもなかったわ。見られてたオレの気にもなってみろってんだ」
「う、うっさいわね。出るタイミング失ってただけよ! だ、誰が好き好んであんな……あんな…………あん……なの見なきゃいけないのよ……」
「お前、今、思い出してたろ。やらしーやつだ」
「し、しししてないわよ! と、とにかく! 私は先に休ませてもらうけど、いいこと? 変態ばっかりするのも良いけど……いえ、良くないけど……とりあえず、とりあえず! 良いことにしておくけど、明日が大事な日だってこと忘れるんじゃないわよ? いいわね、分かったわね!」
 捲し立てるかのように言い終えたラルファは隼人の言葉を待つことなく、繋がる意識を遮断した。

「――あ、あの……」
 一人ブツブツと愚痴を零しながら歩く隼人の前方から、女性の声をした誰かが、隼人に話しかけてきた。考え事をしながら歩いていた隼人は一瞬で現実に戻される。
「え? あ、違うの。こっちのことだから気にしなくていいよ。さ、いこいこ」
 気付いた隼人は慌てて取り繕う。どうやら隼人は、この前方に歩く、今は立ち止まり振り向いた女性と共に行動をしているようだ。
 着ている服装からして『風』に所属する人間のようで。
『風』に所属している=当然美しいおみ足と言っても過言ではないその脚には、元から着用していたのか、それとも『邪な心を待った誰かさん』に強要されたのかは定かではないが、隼人の好物であるニーソが完備されていた。
「い、いえ、そ、そうではなくて……つ、着きました」
 やはり男性に対しての免疫が低いのだろう。しどろもどろな言葉遣いになってしまう。
「あ、そうなの? ここ?」
 隼人は女性の横に並び立つと――女性は無意識に半歩程距離を開ける――目の前にある扉を指差した。
「は、はい。こ、ここがレヴァイン様の、お部屋になっております。そ、それでは、私はこの辺で、し、失礼させてもらってもよろしいでしょうか?」
「悪かったな、部屋案内なんて頼んで。でもホント助かったよ、ありがとな」
「い、いえそんな! そ、それでは私はこれで」
「おう、そんじゃな。明日頑張ろうな」
 頭を下げて返事を返した女性は、来た廊下を戻っていった。
 女性を見送った隼人は再び扉へと向き直る。
 城に所属する『将軍』『副将軍』は有事を想定して各人、部屋を用意されているのだが、隼人の用意された部屋の扉に劣らず、レヴァインの部屋の扉もかなり立派な作りだ。
 さてさて、さあさあ、扉の向こうからはどんな美女が姿を見せてくれるのか。
「さて、と……ん、んっ」
 隼人は手を首元に持ってくると『無い』ネクタイの縒れを直す。『無い』手鏡で、髪は決まっているかを入念に確かめる。カゴの中身を確かめる。ニーソは残り三枚、オッケー。目力が増す。
 エア身だしなみチェック終了。オールOK。今まさに隼人は紳士モードへと突入したのだった。

 コン コン
 隼人は扉を叩いた。どことなくスナップの利いた紳士なノック。
「――はい、どなたですか?」
 すぐに扉の向こう側から聞こえてきた女性の声に、隼人は僅かばかり緊張する。
 緊張を振り払う意味も含めて、隼人は咳払う。
 それは部屋にいるレヴァインにもハッキリと聞こえ、レヴァインを不安にさせるには十分であった。レヴァインの知らない男性の声。知らない男がいる。なぜ? と。
 ちょっと待て。ここで少しの疑問が。レヴァインは城で寝泊まりをする何千という男性衛兵の声を全て覚えているというのか? いや、違うのだ。
 レヴァインの部屋がある区域は女性以外の歩行は余程のことがない限り許されておらず、特別に歩行が許される男性は上官である『将軍』と、レヴァインと同格である『副将軍』だけなのだ。だから、知った声、知らない声の判別など簡単なことなのだ。
「ど、どなたですか。何故黙っているのですか。名を、名を名乗りなさい」
 レヴァインはもう一度問い掛ける。ほんの少し語気が強くなったそれは、焦りを含んでいるとも聞いて取れた。
「本日『将軍』に任命された赤時隼人だ。こんな遅い時間に尋ねてきて迷惑だと承知しているが、『将軍』として、明日共に討伐に向かう副将軍であるキミに『どうしても』話しておかなければならないことがあるんだ」
『将軍』と『どうしても』の部分を強調して喋る隼人。効果はてきめんで、
「……将軍? ア、カ、トキ…………っ!」
『将軍』と『赤時隼人』を照らし合わせたのだろう。扉の向こう側で、『慌てる』音が隼人の耳にも届く。カチャリ――扉の鍵が開く。……おしっ! 隼人は後ろ手でグッと拳を作った。
 柔らかい花の香りと共に隼人の前に姿を見せたレヴァイン・ノヴァは、すでに甲冑を外した普段着の姿。
「も、申し訳ありません。ご無礼な対応を取ってしまったこと、お許しください」
「……い、いや気にしなくていいよ。キミは何も間違った対応取ってないし」
 柔らかい物腰で謝るレヴァインに、隼人は一回の瞬き程、気持ちを動揺させた。
 知的な顔立ちをした瑠璃色の髪の女性は一目で、クール。出来る女を連想させ、そしてこれは分かり切っていたことだが、隼人は改めて思う。この国の美女率は相当高いと。
「お優しいお言葉ありがとうございます。……して、わたくしにお話があると仰っていましたが、それはどのようなお話で?」
「おっと。そうそう、話だったな……んー……そうだなぁ……」
 隼人は考える仕草を見せる。仕草を。何も考えてないが、あくまで仕草だけを見せる。
「えっと、あの……どうしましたか?」
「ん、いや、ちょっとな。この話を人に聞かれるのはあまり……」
「人、ですか? 大丈夫ではないでしょうか? わたくし達二人以外、周りには他の人の姿はありませんよ?」
 は? 促された隼人は周りを見た。離れた廊下を歩く音が小さく響いて聞こえるだけで、この場には誰一人として人の姿はなかった。
「……い、いや! 今は確かに人の姿は見えないかもしれないが、いつ人が通るかも知れん。よ、用心に超したことはないだろ」
「は、はあ……で、でも、この辺り一帯は女性特区になっておりますから、極限られた人しか通行出来ないようになっていますので……」
 女性特区だと? なんだよ、それ。ざっけんなよ。そんなのオレ一つも聞いてないんだが。隼人は歯噛みした。が、挫けることは無い。隼人の辞書には『引く・下がる・逃げ』の文字はないのだから。とりあえず、策だ。何か新たな手立てを早急に考えなくては。
 今度は仕草ではなく真剣に考える隼人は『ある手』を閃くが、多少無茶な感がある『手』に戸惑う。
 ……一体何が、彼をこうまでして悩ませ考えさせ動かせるのだろうか。言わせんな、恥ずかしい。……ニーソだろ。
「どうかしましたか?」
 不安げな顔をしたレヴァインが声をかけた。
 ええーい。南無三。いったれー。隼人は覚悟を決めた。
 ……矢先、レヴァインの方から予期せぬ言葉を掛けられる。
「――あの、もし、それでも不安だと言うのであれば……わたくしの部屋にお入りになってからお話しすると言うことも……」
「……え? 今、なんて?」
「だ、だから……わたくしのお部屋で、と……」
「いいの?」
「す、少しだけなら大丈夫だと思います」
 まさかまさかの大どんでん返しであった。
 隼人が急遽書き上げた脚本の予定では――
『ん!? 廊下の角から誰かがオレ達の会話を盗み聞きしてるぞー! ふてぇ野郎だー。オレがとっちめて来てやるー。レヴァイン、キミはここで待っていてくれ。いや、なに直に片付けてくるから安心して。うおー、誰だー、そこにいるのはー!』と言って薄暗い廊下の角へと消えると、急いで適当な衛兵をぶっちめ気絶させ、その首根っこを捕まえながら戻ってくると、レヴァインに突き出し『こいつが盗み聞きをしていた。キミが言う、女性特区だからだと安心して話を続けていたら取り返しの付かないことになっていたな』。そしてレヴァインが感謝と謝罪の言葉を述べ、最後に『わたくしの部屋の中でしたら間違いないかと』言い、隼人が満足げに『うむ。仕方ないな』――となるはずだったのだ。
 それがだ。開演間際でのお蔵入り。
「ほ、本当にいいの?」
 あまりに急転直下な逆転劇に、思わず隼人は聞き返していた。
「え、あの……だから少しだけ。本当に少しだけってことなら……」
 顔が赤くなるレヴァイン。既に隼人も見慣れたお決まりの光景だ。他の女性達と同じように、やはりレヴァインも男が苦手で、部屋に招き入れるのに相当の勇気と、怖さがあるのだろう。
「やはりキミも男性が苦手なんだろ? それなのに……キミの勇気に本当に感謝する。ありがとう。大丈夫、時間はさして取らないから安心してほしい」
 隼人の言葉にレヴァインは安堵の息を漏らした。
「そ、それでは……どうぞ」
 レヴァインに続いて部屋に続いて入る隼人は後ろ手で拳をグッグッと握りしめた。
 レヴァインが念を押した『少しの時間』。にも拘わらず隼人がレヴァインの部屋から再び姿を見せたのは日付も変わろうとする、時計の長針が二周した頃であった。
 部屋を出てきた隼人の体には、長時間居続けたせいか甘い花の香りがしっかりと染みつき、ご機嫌な様子で空になったカゴを宙に投げてはキャッチを繰り返しながら自分の部屋へと戻っていった。
 室内では一体何が起きていたのか。それは部屋にいた二人にしか分からないのであった。

 欠けた月がジュナルベイル城を照らす夜は終わりを迎え、そして迎え入れる日の光。光は闇色を薄め消し去り、朝霧に包まれた静寂の町を照らし始める。一日の始まりを告げる、人々達の目覚めを促す日の光。
 ――討伐当日の朝を迎えた――
 昨日とほぼ同じ時間に隼人の部屋へとやってきたナスターシャは、準備も朝食も終わっていた隼人を連れてすぐに部屋を出た。向かう先は王女リリスの待つ中央王間。
 国家間戦争とは違って大変小さなものではあるが、これから討伐出発前の出陣式が行われる。
「昨夜はぐっすりと眠れたか?」
 歩きながらナスターシャが隼人に話しかける。前日隼人に言われた通り、脚にはニーソがしっかりと履かれていた。心なしか、歩くたびに奏でて聞こえるヒールの音が力強い感じがしないでもない。
「ああ意外にな。緊張して寝れねぇかと思ってたけど、なんかいつの間にか寝てたな」
「そうか、それなら良かった」
 そう言ったナスターシャは、一秒、二秒、三秒と経ってからようやく隼人から視線を戻した。戻してからも隼人の様子を窺うようにチラチラと視線を送っては、わざとらしくニーソの方へと視線を落とす。そしてまたチラチラと、その表情はどこか『……ほら……ほら、ほら。何か私に言うことがあるんじゃないのか? ん?』といいたげ、いや、あからさまに訴えていた。
 ナスターシャが隼人に何を求めているのか。流石にこれに気付かぬほど隼人は鈍感な男ではなかった。どうしたものか。素直に言ってもいいものかと極力横を見ないように考えてる間、チラ見を繰り返すナスターシャ。引き下がる気など毛頭無いようだ。ちょっ……おまっ。隼人は下唇を噛むように堪える。得体の知れないチクチクチクチクチクチクチク感が隼人を擽る。くすぐったい、痒い。視線がものすごくむず痒い。チラチラチラチラチラチラが『ほら。ほら。ほら。ほら。ほら。ほら』と、ナスターシャの心の声に聞こえて来始めるともうダメ。限界だった。
 笑いを堪えきれなくなった隼人は吹き出すと、腹を抱えて声高に笑う。あまりに突然のことにナスターシャは元より、廊下を行き来する衛兵達の目が「何事」かと一斉に隼人へと集中した。
「お、おい?」と声をかけたナスターシャは、それからは唖然とした表情で隼人が笑い止むのを待っていた。笑い続ける隼人を横目にしながら、衛兵達が通り過ぎていく。
 笑い収まった隼人は、はあっ、と大きく息を吐いて痛むお腹を落ち着かせる。
 落ち着いてきた隼人にナスターシャが話しかける。
「い、一体いきなり……何事だ? ビックリするではないか」
 お前のせいだろ。と言おうとしたが、その言葉は飲み込んだ。
「ん……いや、なんか分からんけど、なんかツボった。わりぃわりぃ、もう大丈夫だから」
「……変なやつだ……まあ良い。それよりも急ごう、恐らく姫様のことだ。既に我々のことを待っているはずだ」
 今ので、ニーソの件がすっかり頭から消え失せたナスターシャは隼人を残して、一人歩の速度を上げ先へと進む。
「おい」すかさず呼び止める隼人。
「なんだ?」振り返るナスターシャ。
 言葉を待つナスターシャに隼人は短く簡単に。「すっげー似合ってるぞ」と褒めてやる――それだけで十分であった。
 一瞬の間の後、気付いたナスターシャはフワリ柔らかい笑みを作ると「そうか」と一言言い残し、歩き始めた。
 その背中を黙って見ている隼人は頭を掻いた。あー……まいったね。綺麗に可愛いって反則だろ。自分でも顔が赤くなってることがハッキリと分かった。
「おい! 何をしてるんだ早く来ないか!」
 また振り返り大声で急かすナスターシャに隼人は手を挙げて応えると、慌てて駆け寄り、二人並んで中央王間へと向かった。

 中央王間の扉の前へとやってきた隼人とナスターシャ。重厚で大きな扉の前に立つ衛兵はなぜか、信じられないといった表情でナスターシャを見ていた。ナスターシャもそれにはすぐに気付いていた。昨日、隼人に言われてニーソを履くようになってから、男性から向けられる視線に、どことなく変化を感じていたのだが。今日は特に強い違和感を覚えた。昨日まで向けられていた余所余所しく落ち着きがない視線ではなく。明らかに『驚いてる』といった感情を顔全体で表しているのだ。
 不思議に思うナスターシャを余所に衛兵が静かに扉を開く。
 衛兵が、邪魔にならぬよう扉の横へと移動し頭を下げた。
「――どうぞ。女王様が中でお待ちになっておられます」
 中央王間の扉が開かれた先。王間には既に多くの者達の姿があった。みな今回の討伐に関係する者達だ。王間の入り口、扉から一直線に延びた赤絨毯の先には、玉座に腰を落ち着かせて待つ王女リリスの姿があった。
 座るリリスの右側には『火』の副将軍ライラック・ワードナー、『巨』の副将軍――顔全体を覆う鉄製仮面を腰に抱えた黒髪短髪の男――ロナウ・アックスフォールが、左側には『風』の副将軍レヴァイン・ノヴァが立っていた。ガイナとアルベセウスの姿は無い。二人はまだ来ていないようだ。ナスターシャはそんなことよりも気になる事があった。王間に入った時から、『ソレ』が気になって仕方がなかった。
 レヴァインを筆頭に特別に編成された『風』の隊一三人、全てが長尺靴下、ニーソを着用しているのだ。薄青い制服衣装に黒色ニーソがなんともセクシーでよく目立っていた。赤絨毯を間に挟んで、入り口から向かって左側に『風』の女性陣。右側に『火』と『巨』の男性陣が並び立っているのだが、どことなく落ち着きのない様子が窺い見られる女性達。男性陣からの視線が気になるのだろう。扉の前に立つ男の自分を見たときの反応にナスターシャは何となく理解出来た。
 ナスターシャは後ろを振り返ると隼人をジッと見つめる。お前か、と。
 隼人は逃げるようにフイと顔を逸らす。「おい」と言っても隼人は黙ったまま。襟首を掴んで再度答えを促しても黙ったまま。埒があかない様子に、堪らず――
「ちょっ!? ちょっ、お、おいっ! こら、引っ張んな!」
 ナスターシャは隼人の首根っこを掴むとグイグイ引っ張るようにして、赤絨毯の上を歩きながら「ちょっと集合」と、『風』の隊に所属する者全てを呼び寄せる。レヴァインもリリスに頭を下げてから急いでナスターシャの元へと集まった。
 赤縦断の横にナスターシャと隼人を中心とした女性の輪が出来た。
「一体どうしたんでしょうか?」
 リリスは横に立つライラックとロナウに聞いた。
 身を竦ませるライラック。
「さあ……僕にもよく分からんのですが。まあ、痴話喧嘩か、何かとちゃいますか?」
 ロナウは首を振って応えるだけだった。そのロナウの肩にライラックは肘を乗っける。
「せやけど……なあ? ええ眺めやと思わん? ええ目の肥やしになるわぁ」
「? あなたが何を仰っているのか僕にはよく分かりません」
「またまたぁ。内心喜んでんのやろ? 分かってんねんで」
 ロナウが冷めた目でライラックを見る。
「分かってる? 何をですか? 優秀なあなたと違って、才の無い僕には女に現を抜かしてる暇などありませんから」
 そう言って肩に乗っかるライラックの肘を払って除けた。
「……ホンマ、そないなとこまでよう兄さんに似とるよな。少しくらい女に興味あるとこ見せとかな、しまいにはホモと思われるようなんで?」
「好きに思えばいいでしょう。それに僕は一言も女性が嫌いだとは言ってません。過程に置いて今は必要ではないと判断をしているだけです」
「……過程ね。まあ、頑張って兄さんを越えてやってくださいな」
「あなたに言われるまでもない……僕は必ず越えてみせる」
「無理だけはなさらずにしてくださいね? ガイナはガイナ。ロナウはロナウで、私は十分すぎるほど助けられていますから」
 ライラックとロナウの話を横で聞いていたリリス。労りの優しいお言葉を掛けられたロナウは謝意を口にし、頭を下げた。
 そして三人はまた隼人とナスターシャの方へと視線を戻した。

「で? これは一体どういうことなんだ? 説明してもらわないとな。お前だろ? お前が企てたことなんだろ?」
 周囲を女性に囲まれた、完全敵地に拉致された隼人は黙秘を続けるのは困難と思ったのだろう、重く閉ざした口を開く。
「……A○B四八だよ……」
「……エー○ービー? なんだそれは?」
 隼人は顎に手を添え暫し沈黙する。
「この世界で『歌』を歌う人のことは何て言うんだ?」
「『詩』? 詩人だが? それがどうした?」
「詩人か。……多分オレの言う『歌』とは根本的に違うみたいだな。ま、いいけど」
「何を一人でブツブツ言って一人で勝手に納得しているんだ。だからそのエー○ービーとやらは一体なんなのだ?」
「おっと、すまねすまね。その『詩人』の中でも選りすぐりの女性を四八人集めたのをA○B四八って言うんだよ。んでな……」
 ここから隼人のプチA○B講座が始まるのだが――
『A○B』は活動拠点の舞台となる街の略称だとか。派生ユニットが複数存在するとか。恋愛は御法度だとか。信者は一〇〇万人以上だとか。捲し立てるようにして早口で説明するが、この世界である人間達にはチンプンカンプンな内容で、一つも理解出来るものはなかった。隼人を囲んだナスターシャ達は、ただ黙って隼人の話が終わるのを待っていた。
「――な、なるほど……で? エー○ービーと言うのが詩人の集まりだというのは理解出来た。国民にもよく愛されてるのも分かった。しかし、それがなぜ……わ、私は別に構わないのだが……この者達みんながニーソを履く理由に結びつくんだ? しかも詩人ですらもないんだぞ?」
「え? だってA○Bニーソめっちゃ履いてるし」
「は?」
「だからニーソめっちゃ履いてるから」
「そ、それだけ? 詩人は? 今の無駄に長い説明は?」
「は? 『それだけ』じゃねーよ! 四八人だぞ! 四八人みんなニーソ履いてんだぞ! 壮観なんてもんじゃねーんだからな。歌? そんなもんオマケだオマケ。歌など真剣に聴いた試しがない。ニーソにしか目がいってないからな。分かるか? 所詮A○Bもオマケなんだよ! 主役じゃないんだよ! ニーソが主役なんだよ! A○Bなんて、所詮ニーソの引き立て役にしかならねーんだよ!」
「……昨夜もそうだし。隼人ってホント変態ね」
 黙って聞いていたラルファが溜め息混じりの言葉を口にした。
 開き直りとも取れる熱弁を震い、若干興奮気味の隼人。離れたところからパチ……パチ……パチと、ささやかな拍手の音が聞こえてきた。ライラックが拍手をしていた。隼人が何を言わんとしているのか理解出来た同類のライラックは隼人に深い感銘を受けたのだ。 ライラックの拍手を聞いた男性衛兵達は、勘違いを起こす。衛兵達は隼人が何を言っているのか要領を得ないまま、ライラックに釣られて一人また一人と手を叩き始めた――言いたいことはよく分からないが、副将軍が拍手をなさっているんだ。何か立派な発言をなされたのであろう、と――それはやがて鳴り止まんばかりの盛大な拍手へとなっていった。衛兵達は最初から立っていたのだが、まさに状況はスタンディングオベレーション。
 え? お、オレか? その拍手が自分に向けられたものだと気付いた途端、背筋が震え鳥肌が立った。
「……お、おい。コレは一体何事だ?」
 狼狽戸惑うナスターシャと『風』の女性陣を余所に、もの凄く気分を良くした隼人は俄然調子づく。隙を付いてナスターシャの横をすり抜けた隼人は、リリス達が居る場所。三段高い位置にある王壇へ駆け上がると、黒衣をひるがえし、衛兵達を上から見下ろす。自然と拍手はピタリと止んだ。何百という目が隼人に向けられる。言いようのない高揚感が隼人を支配する。王様になったような気分だった。真後ろにリリスという王女が存在するのも忘れて。
 またふざけたことを言うのではないかと、ナスターシャは嫌な予感がしてならない。
 そして一つ間を置いて隼人が口を開いた。
「――オレはここに宣言する! A○B四八に負けないニーソックス集団を作ることを! LHS四八を作ることをここに誓わせてもらう!」
 隼人の後ろからバチバチバチと激しく手を叩く音が聞こえた。よーゆうた! よーゆうた! と言ってるかのような、気持ちを込めた拍手をライラックがしていた。とりあえず横に座るリリスもライラックに倣って手を叩いた。女王がしている以上はと、ロナウも仕方なく拍手に加わった。そうなると、もう一瞬で先ほど以上の拍手が鳴り響いた。
 ナスターシャは静かにキレた。王壇から、衛兵達の拍手に手を振って応える隼人が気付いたときには、既にナスターシャがすぐ真横に立っていた。「ひぃっ」驚いて声にもならない声を上げた隼人にナスターシャはスコンと足を払うと馬乗りになり、殴りまわした。
「ちょっ! ふがっ! ……こ、こらっ! てめ! あがっ! やめっ……ひひいっ!」
 鬼や。そこに鬼がいた。隼人は手で覆うようにして顔を守った。ナスターシャはお構いなしに殴り続けた。的確にガードの隙間を突いてくる。右、左、右、左、時々アゴ。隼人の顔が面白いように揺れまくる。
「……た、助けてくれぇぇ……へぶっしゅ……」
 盛大だった拍手は、ナスターシャの拳が隼人の顔面に振り下ろされる度に、少し、また少しと元の静けさへと戻っていき、代わりに隼人を殴打する音だけが生々しく響き渡るようになっていた。みーぎ、ひだり、みーぎ、ひだり、ときどきアーゴ、ストーレートォ!

「わりぃな。少し遅くなっちまって」
 そう言ってバツが悪そうに王間に姿を見せたのはガイナと、アルベセウスの二人だ。
 王壇に上がった二人は所定の位置へと着く前に立ち止まった。リリスは困ったような表情を二人に返した。
「……ど、どした? 俺達が来るまでの間に何があった?」
 ガイナはナスターシャと、その横に正座する隼人に声をかけた。ナスターシャはフンと息を返すだけで、そして顔面が黄土色に変色し、パンパンに膨れあがるほどナスターシャに撲殺寸前まで殴打された隼人には、答えを返す気力など無かった。ただ目も虚ろに「すまぬ……すまぬ……すまぬ……」と、壊れた玩具のようにひたすら繰り返すだけであった。

 そして始まる出陣式。つい一刻前の騒ぎがウソのように静まり返った、微動も殆ど許さずに整列した衛兵達が見守る中で、出陣式は始まった。
 王壇。リリスの前には片膝を着いて頭を下げる『三神』に、それに倣って頭を下げる隼人。全く慣れないことで、隼人には気恥ずかしいものがあった。
 リリスは『三神』一人一人に、膝を付いて短く声をかけると、自分の左頬に相手の左頬をそっと合わせ、次に右頬に右頬を合わせると最後に額へ、そっと口付けていった。
 隼人の番へと回ってきた。頭を下げた隼人の視界に純白のロングドレスの裾が入ってくる。
 リリスが膝を付こうと腰を下げると同時にドレスがフワリと膨らみ、流れる空気に乗って甘い香りが隼人の鼻を擽った。
「――お顔をお上げになってください」
 促されて顔を上げた隼人のすぐそこにリリスの顔があった。
 隼人と目が合った瞬間にリリスはニコリと微笑むも、すぐに悲しい表情へと変わった。
「遠いところをお越しになられて早々、このような大任を押し付けるようなことになってしまい本当に申し訳ありません。そして引き受けてくれたことに深く心から感謝します」
「いや、まあ……出来る限りのことはするつもりだけど、過度の期待はやめてくれよ?」
「はい、大丈夫です。危険を感じたときはすぐにお逃げになってください」
「……自分で言っておいて何だが。なんかそうハッキリと言われると流石に悲しいものがあるな。それに逃げるとまでは思ってねーし……女が頑張ってるのに野郎のオレが逃げるわけにはいかんだろ」
 横のナスターシャが小さくウンウンと頷いた。リリスはナスターシャに微笑み返すと、また隼人へと視線を戻した。
「どうかナスターシャの力になってあげてください。お願いします」
 隼人に身をより近づけたリリスは隼人の両肩に手を添えるように優しく乗せると、眼前まで迫った。これには隼人も一瞬ドキっとした。瑞々しく可愛い小さな唇が言葉を紡ぐ。
「――汝、アカトキハヤトにワグナスの御加護があらんことを――」
 右左とリリスは隼人の頬に自分の頬を合わせると、隼人の額に可愛いキスをした。
「帰ってきたら、またランマルに会わせてくださいね」
 そう言ってリリスは少女らしい可憐な笑顔を隼人に見せると立ち上がり、元の場所へと戻っていった。
 そんな顔を見せられた隼人は、頑張るか。と思うことしかできなかった。

 慣れない演説、これからも慣れることがないであろう演説を終えたリリスに代わって、王壇の一番前に立ったアルベセウスが淡々とした口調で、王間に集まった衛兵達、指揮権を与えられた衛兵達に最終的な指示と確認を繰り返していた。
 王都ログナスを囲う城壁。北に位置する前門にはロナウが陣頭指揮とする、二つの大隊からなる連隊が配置とされ、南に位置する後門にはライラックが陣頭指揮とする、二つの大隊からなる連隊が配置とされる。後は五〇人規模の『火風巨』の合同小隊二チームを中隊とした部隊を、城壁の外部全方位至る所に配置。『風』の副将軍であるシークについては今回は城での待機となっている。『前線を突破した喰人』という不測の事態を想定とした陣形、編成となっているのだ。実際今まで喰人がログナスにまで攻め入ったことは一度もない。なぜなら、最前線に立つ将軍達が意地と誇りに賭けてそれを許さないからだ。
「――以上となっているが……良いか? これだけは忘れてくれるな。お前達が城を守ってくれているからこそ、私達三神は一切の思慮なく存分に戦えているということを。お前達の頑張りが無くしてこの国の未来は開かれぬということを」
 鼓舞する言葉で最後を閉めたアルベセウスは後ろを向くと玉座に座るリリスに一礼し、ガイナ、ナスターシャ、最後に隼人へと視線を移すと微笑を作り頷いた。
「さあ、行くとしようか――」
 王壇から降りる四人。
 一人どこからか声を上げた。
「ウエア! ラーズ! ドゥーレイズ! リーンハルス!」
 ――ウエア ラーズ ドゥーレイズ リーンハルス――
 衛兵達は堰を切ったように一斉に、『栄光と未来のリーンハルスは我らと共に』という『万歳』を意味する言葉を何度も口にした。赤絨毯を歩く四人の将軍に向けて。拳を振り上げ目一杯に声を張り上げて。リリスは四人の姿が王間から無くなるまで、その背中に拍手を送り続けていた。
 ――どうかご無事で。最後小さくそう呟いたリリス。膝上に下ろした手は小さく震えていた。

 ログナス城門前は隼人達を含む何千という数の人間で溢れかえっていた。
 集まった衛兵達は各人与えられた持ち場へと、散り散りとなって急ぎ早に移動を開始していく。隼人が空を仰げば、ペガサスに跨る衛兵達が右左前後ろと交差を繰り返しながら飛行していた。意外にペガサスは早く飛ぶことが出来るようだ。羽ばたいてるペガサスもいれば羽ばたくのを止め、空を滑るように……滑空飛行をするペガサスもいる。隼人はふと思った。ペガサスは馬なのか? それとも鳥なのか? 隼人はナスターシャに聞いてみた。しかし返ってきた答えは『天馬』で、なんか釈然としない隼人だった。
「兄さん、気を付けて」
 馬に跨ったロナウは兄である上官ガイナにそう一声かけると鉄仮面を被り駆けていった。ロナウに続くようにして大勢の衛兵達も移動を開始する。
「そんじゃオレも行くとしますか。ま、せいぜい頑張っておくんなはれや大将」
「お前もな」
 ライラックはアルベセウスの言葉に笑みを返すと、手をヒラヒラと振りながら緊張感皆無なままロナウとは逆の南門へと向かった。
 入れ替わるようにして、衛兵に手綱を引かれながら二頭の、普通の馬よりも二回りは大きい巨馬が姿を見せた。手綱を受け取ったガイナとアルベセウスは巨馬に飛び乗り跨ると隼人とナスターシャの傍までやってきた。
「そんじゃオレ達は先に出るぜ。こっちが片づき次第そっちの応援に回ってやっからな」
「ナスターシャよ、くれぐれも無理はするなよ。特にロゼが現れたときはまともにやり合おうとするな。私達が向かうまで逃げ通すことだけを考えるんだ、いいな」
「心配するな。こっちには優秀な紋章憑きがいるんだ。こっちはこっちで何とかやりきってみせるさ。なあ? ハヤト」
「ん? ぁあ……やれるだけのことはするつもりだけど、まあ期待はすんな」
「ハヤトよ、キミには本当に感謝している。さすがに今回の相手は私達紋章の力を持った者以外では厳しいのでな……」
「無事に終わったときには相応の我が儘を聞いてもらうとするよ」
「それは勿論だ。出来る限りの誠意を持って応えさせてもらうから安心してくれ」
 その言葉を最後に、ガイナとアルベセウスの二人は数人の衛兵を引き連れて城を出発した。目的地はマコロ平原。

 残った隼人とナスターシャにLHS四八(現在一三名。この先増えるのかは事情により未定)の女性達。強く風が舞ったと思ったら直にペガサスに跨ったシークが上空から降りてきた。一昨日の夜にシークが跨っていたペガサスも風格を漂わせてはいたが、それよりもより強い風格を纏った芦毛色をしたペガサスだ。馬体には長大なランスが邪魔にならない位置に取り付けられていた。
 シークがペガサスから降りる。
「お待たせしてしまって申し訳ありません。リリマーレンお連れいたしました」
 リリマーレンと呼ばれるペガサスはナスターシャの差し出した手に自ら首を擦りつける。
「良い子だ」
 ナスターシャがヒラリとリリマーレンに跨ると後ろに取り付けられた鞍をポンと叩いて隼人に乗るように促す。
「あ? いやオレ乱丸いるし」
「ランマルはダメだ」
「は? なんでよ」
「他のペガサスが怖がってしまうからな」
 隼人は一昨日の夜を思い出す。
「あー……確かに。それならまあ仕方ねーな、でも大丈夫なんだろうな? 振り落とされるのとかだけは勘弁してくれよ……っと」
 隼人は勢いを付けて飛び乗る。
「心配するな、私はそこまで荒い操縦はしない。では早速動くぞ? 少しばかり時間をくいすぎてる。鞍の取っ手をシッカリ掴んでおけよ」
「取っ手? ああ、これか」
 そう言って隼人は股の間にある取っ手を掴んだ。
「さあ行くぞ!」
 大きく声を上げたナスターシャが手綱を引くとリリマーレンは翼を羽ばたかせ、グングンと上昇し、大勢の衛兵達が地上から見送るなか飛び立っていった。
 ナスターシャと隼人の目的地はオージス平原。


 マコロ平原の地食発生地点に到着したガイナとアルベセウス。直径一〇米程の、沼のような漆黒の空間が地に存在していた。二人は馬から降りると付き添いの衛兵に手綱を渡し安全な位置まで下がるように指示を出した。急いでこの場を離れる衛兵達。
 アルベセウスはすでに異変を感じていた。施していた封縛が破かれていた。しかし、喰人が姿を現した形跡は全く見受けられない。それはつまり――
「舐められたもんだな」
「フッ、恐らく私が封縛を施していたのを地食の向こうから見ていたのだろう」
 アルベセウスが再び現れるのを確信して持っているのだ。そしてそれは今実現された。喰人の望んだとおりにアルベセウスはやってきたのだから。しかも二人となって。
「――準備は……――出来たのかね――」
 地食の奥から聞こえた男の声。漆黒の空間に幾重にも波紋が広がり、二つの光が漆黒の空間の中に小さく灯る。大地が鳴った。それは突き上げるかのような衝撃。一瞬景色がグルリと回転する。勿論錯覚でしかないのだが、それは超大なエネルギーを持った喰人が降臨することを示す。
「来るぞ!」
 ガイナとアルベセウスは離れて高い位置へと飛び退く。
「――ヴァンディエン リッヒ リン カークス――」
 ガイナは一つ目オーガの面を召喚すると顔に掛けた。
「これは中々手を焼きそうな相手やもしれんな」
 グールバロンの声にガイナは気を一層引き締める。
「上等じゃねぇか。アルベセウス! 一気にいくぜ。全開だ」
 アルベセウスは頷く。
「――マークス インビット ディヴァ ガイナ リブ リン カークス!」
 ガイナの付けたオーガの面が独眼光を激しく放つと、瞬く間に面とガイナの顔とが同化していく……ガイナの顔が、目が。パキリ、ペキリと不気味な音を立てて巨大な一つ目へと変化していく。
 そして地喰。大地が激しくうねり踊り、漆黒の空間が荒々しく波打ち、やがて……盛り上がり始める……一つ……二つと。
 黒い障気を噴出させながら、その姿、現す。漆黒のベールを身に纏った大小二つの完全なる人型喰人が降臨した。
 言葉を口にする喰人。
「――あー……ジェントルメンの諸君。準備は如何ほどかな? 私は待ちくたびれてね……さあ、どうなのかね?  久しく体を動かしていない私は暴れたくて暴れたくて体の震えを抑えることが出来なくなってきたんだがね……君たち二人は私を存分に楽しませてくれるんだろうね? んん? どうなんだ? 私を、満足させてくれるんだろうねぇ!」
 最後、一層声を張り上げた喰人の黒膜が弾けて消える。黄金色の瞳に青色肌の男性型喰人が姿を見せた。
 白髪……否、灰色髪をオールバックにし、への字型の口髭――カイゼル(皇帝)髭を生やした喰人の装いはまるで上流階級貴族紳士。
 そしてもう一方も声を発する。
「伯爵、うるさいです――」
 まだ声変わりもしていない――リリスのような――幼い声。小さい体を覆っていた黒膜が胸元の一点に吸い込まれるようにして消える。黄金色の瞳に青色肌の女性型喰人が姿を見せる。
 肌の色よりも濃い、紫がかった青色の髪が淡く光輝き、可愛くフリルの付いたカチューシャを乗せた女性型喰人。
 黒いワンピースにフリルの付いた純白のエプロンが組み合うエプロンドレス。その装いはまるで伯爵にご奉仕し付き従うメイドそのものであった。
 ……二人かよ。しかも――数多くの修羅場をこなし、潜り抜けてきたガイナ。直感的に、やばい域に達してる相手だと感じた。脳裏に『ロゼ』の二文字が浮かぶ。
 舌打つガイナの肉体が激しく震え、背、肩、肘と、奇妙に衣服を突き破ることなく鋭い角が生える。ガイナの足が地に深くめり込む。
 刹那、レガースを同化させた足が禍々しく形を変えていく。
 刹那、ガントレットを同化させた腕が禍々しく形を変えていく。
 最後、黒衣をも完全に同化させたガイナの体は『人』としての形は失っていた。
 召喚魂リンカークスによって、オーガモードへと切り替わったガイナの体積が優に二倍を超えた大きさになった。馴染ませるかのように、慣らすかのように、独眼を左右に上下に動かし、そして喰人二体を捉える。リンカークスの魂と同調し不安定に揺れる精神を集中して落ち着けさせる。二体の喰人を目に、脳裏に、リンカークスの魂に焼き付けさせていく。
「……じゃあ、おっ始め――っ」
 喋ってる途中、メイド風喰人の目が一瞬光ったと思ったときには、もう遅かった。ガイナの腹部をメイド風喰人が貫いていた。

「……つまんないな」瞬殺にメイド風喰人は落胆の声をポツリと呟いた。
「余裕ぶっこいてんじゃねーぞ?」
「え?」まさか。
 背後から聞こえたガイナの声。振り向いた喰人の顔にガイナの巨大な拳がめり込む。耳を劈く破裂音が響き渡ると『何か』が木っ端に弾け散った。
 幼く小さい喰人の体が『消えた?』と思わせるほどの早さで吹っ飛び、自然の岩壁に打ち付けられる。音を立てて崩れる岩壁。崩れ落ちる土砂に、喰人の小さな体が飲まれた。
「ほぅ……彼は超回復を使えるのかね」
 伯爵紳士を装った喰人が誰ともなく口にした『超回復』。その言葉の意味を示すかのように、ガイナの腹部に大きく空いた傷穴が見る見ると塞がっていく。
 以前、ガイナと隼人が戦った時のことを覚えているだろうか。
 隼人はガイナの攻撃で酷い傷を負っていたにも拘わらず、それから数時間後には何事もなかったかのように臨時の会議の席に着いていたのだ。
 そう、紋章憑きは常人では到底考えられない治癒能力を持っているのだ。しかし当然、回復が追いつかない程のダメージを立て続けに喰らえば死んでしまうし。肝心の心臓をやられてしまえば即死になる。
 そして伯爵喰人が口にした『超回復』とは。
 紋章憑きが持つ治癒能力と回復速度が何十倍にも強化されたような、とんでも無い能力なのだ。アルベセウスにもナスターシャにも無い、太古の巨人が持っていた異常生体機能を組み入れることが出来る『召喚魂』が扱えるガイナにしか出来ない芸当である。副作用さえなければ最高の能力になるのだが……ガイナが女性を好まぬ理由が『召喚魂』にはあったのだ。
「あの状態になってしまったガイナを倒すのは容易ではないぞ」
 アルベセウスはほくそ笑む。
「なに心配には及ばぬよ」
 土砂の山を突き破って出てきたメイド風喰人。
 よろめきながらも再びガイナの前に立ったメイド風喰人。首から上、顔が無かった。喰人と言えど見た目は少女。可愛らしい小さな顔はガイナの一撃で粉砕されてしまっていた。
「うちのガール、ロロナも――」
 伯爵にロロナと呼ばれる喰人。首元から骨、血管、皮膚組織と、凄まじい早さで再生甦っていく。歯の再生、眼球の再生、髪の毛が生え同じ長さにまで伸び終える。瞬く間に元通りの顔に戻った。
「――超回復の持ち主だからね」
 ロロナは小走りで、地面に落ちたカチューシャを拾いに行くとそれを頭にチョコンと乗せ留め、両手を前で揃えガイナにお辞儀をした。メイドの完成。
 ズクン――ガイナの中で何かが疼いた。相手が喰人だからと、今回はもしかしたら? とガイナは淡い期待を抱いていたのだが、そんなに甘くはなかったか。どうやら巨人とやらは見境無しのようだ。そうこう考えてる内にまた疼いた。いよいよ召喚魂の副作用がガイナの体を蝕み始めた。
「アルベセウス! わりぃけどそっちはお前一人でどうにかしてくれ。オレはコイツを連れてこっから離れたとこで『やる』からよ」
「今回はやけに早い発症だな。まあコッチのことは気にするな、これくらいの相手私一人で十分だ」
「多分久しぶりに使ったもんだから抑制力が弱まってんだわ。マジわりぃな」
 アルベセウスとの短い会話のやりとりを終えたガイナはロロナに付いてこいとアゴで指示を出すと先に飛び去る。ロロナもそれに従い付いていった。
 残ったアルベセウスと伯爵喰人。一陣の風が砂を巻き上げ二人を包み込む。
 伯爵は腕を組んだ状態から左腕を起こすと、自慢の口髭を指先で形を整えるかのように弄くる。
「……私を相手にするのは一人で十分、か。キミも中々言うじゃあないか」
 髭を弄り終え伯爵の組んでいた腕がゆっくりと解かれると、その両手が黒炎に包まれる。歪に揺らめき燃え盛る黒炎。
「でもねぇ。私は下等な人間如きに舐められるのだけは我慢ならんのだよ」
「それは奇遇だな。私も貴様達のような悪魔風情にこの国を好き勝手されるのは我慢ならないんでね」
 組んでいた腕を解いたアルベセウスが両腰に下げた魔導書の留め具を外すと、二冊の魔導書はまるで生き物のように宙を浮かび彷徨い始めた。

「腐り塵るがよいっ!」
 突き出す両手。二股の黒炎が弧状になってアルベセウスに襲いかかる。
「ピアズィ ドロイズェン!」
 アルベセウスは古代言語で『頁十三』を口にする。
 閉じた魔導書が開き攻撃系火系魔法『ヴォルドルェイザ』が無動作無詠唱で発動される。その間僅か一秒――アルベセウスは本来魔法を発動させるのに必要な一連の動作に詠唱を独自に研究開発を重ねた末、詠唱文字を魔導書に書き記すことによって百もの魔法をストック。詠唱破棄での魔法の発動を成功させた、世界でも数少ない一人である――地面に浮かびあがった真紅の魔法陣から立ち上った炎の螺旋柱は伯爵の放った黒炎を巻き込みながらうねり天高く昇り、轟然と爆発した。二種の異なる火の粉が飛び散り降り注ぐ。
「けっ、相変わらず糞汚ねぇ火擬きだな」
 火の神イーヴェルニングが伯爵の黒炎を『もどき』と一蹴する。
 よく見ると黒い火の粉が落ち、付着した大地が斑に黒く変色していく。腐臭が鼻を劈く。大地を腐らせていってるのだ。燃やして灰にする炎と違い、燃やして腐敗(灰)させる黒炎。炎のダメージと違い黒炎のダメージは細胞組織をも腐敗破壊し、紋章憑きの持つ治癒能力機能の低下を引き起こす。
「良い炎を扱うじゃないか」
 巨体の持ち主である伯爵が一気に距離を詰めてきた。
 アルベセウスは後ろに飛び退く。しかし前進と後退。あっさりとまた距離を詰められる。さっきよりも増して、身が強張るほどの重圧感がアルベセウスを襲う。
「ピアズィ ヌインズェン!」
 飛び退きざまに『頁十九』を口にする。攻撃系火系魔法『ヴォルガノーネ』の発動。アルベセウスの前に魔法陣が現れると火砲の如き炎弾が撃ち放たれる。ほぼ零距離。烈火の閃光が弾け二人を中心に生まれた爆風の衝撃波が辺り一帯の自然を吹き飛ばし消し去った。
 朱に染まる大地。伯爵の体が豪火に包まれる。だがそれで終わりを迎えるほど伯爵は楽な相手ではない。炎の中で大きく見開いた目、笑い歪む口元。
 アルベセウスが大きく距離を取ろうと跳ぶ。だがすんでのところでアルベセウスの足は伯爵の伸ばした左手に掴まる。強引に引き戻される。身構え立て直す暇など無い。
 伯爵が胸の前で腕を捻り右拳を固める。膨れあがる闘気に大気が震える。
 アルベセウスは咄嗟に口にする「ピアズィ ズィクスントフィアヴィッヒ!」『頁四六』補助系火系融合魔法『ヴォルベストパンツァー』。突如発火したアルベセウスの体が炎に包まれる。
「何をしたところで私のこの一撃は防げんよっ!」
 一閃豪拳。空気を貫き裂き、伯爵の拳がアルベセウスの腹を打ち抜く。黒炎の槍が天を貫く。『ヴォルベストパンツァー』によって生成着装した火の甲冑が砕け散る。
 アルベセウスは空中でクルリと体勢を起こし地面に着地、片膝を付いた。ぎりぎりだった。魔法の発動が一瞬でも遅れていれば間違いなく伯爵の拳はアルベセウスの腹部を貫いていただろう。それでもアバラの数本は持っていかれたが、これだけで済んだことに良しとするべきか。アルベセウスは口端から伝い落ちる血を拭い笑った。強いな。
「何が可笑しいのかね」
 なっ! 気付かぬうちに伯爵がアルベセウスの背後に立っていた。アルベセウスは頭を掴まれ軽々と持ち上げられる。
「がはっ!」アルベセウスの背中に激痛が走る。
 伯爵の拳打が背中に打ち込まれていた。
「言ってみたまえ! 何が可笑しいと言うのだね! んん?」
 伯爵は続けざまに二発三発四発と容赦なく打ち込む。アルベセウスの体が吊された砂袋のように激しく揺れる。
「おいおい、大丈夫かよ」
 一方的に為すがままのアルベセウスに、堪らずイーヴェが話しかける。
「なに……心配は……うぐっ! ……い、いらぬ……フッ」
 アルベセウスは不敵に笑った。そして伯爵が拳を止めた。
「キミは一々と感に障る仕草を見せる。余程自分に自信があるということなのかね? この様な不利な状況に陥っているというのにね!」
 止めた拳を再度振るう。アルベセウスの口から乾いた声が漏れた。
「キミも分かっているとは思うが……私は本気で拳を握っていないのだよ? もし私が本気で拳を握っていれば、先ほど見舞った一撃のようにキミは無事では済まないのだよ?」
 アルベセウスの肩が大きく震える。最早当て付けにしか見えない。
 アルベセウスはまたも笑っていた。
「ならば本気になればいい……いや、本気になることを勧める――ピアズィ ドロイズェン!」
 光り捲れる魔導書。伯爵の足下に魔法陣が浮かび上がると、うねる炎柱が勢いよく立ち上った。伯爵は咄嗟にアルベセウスの頭から手を離すと後ろへと飛び退く。手が離れたのと同時にアルベセウスも伯爵とは逆の方へと飛び退いた。
 再び互いに距離を取り合った二人。先に動いたのはアルベセウスだった。
 アルベセウスは跳躍し、より伯爵との距離を取ると口を開いた。
「貴様は確かに強い。しかし、それでもその『強さ』は私の想定とするところ。分かるか? 私の相手をするには貴様では余りに非力。力不足ということだ」
「……言うじゃあないか。いいだろう。キミがそこまで言うのであれば、私はこれから本気でいかせてもらうとしよう」
「それが賢明な判断だ……と言いたいところだが、もう遅い。貴様が『ロゼ』でないと分かった以上、無意味に戦いを長引かせる必要もないのでな、一気に終わらせるとしよう」
 その言葉に対して伯爵が抱く感情は、猛り余る怒りか? 違う。
「確かに私は『ロゼ』ではない。しかし、だからといって私を舐めぬことだ。本気になった私を軽く見ていると痛い目を見ることになるぞ」
 並大抵のことでは揺れ動かぬ絶対の自信を持った余裕は、屑程も崩れることはなかった。
 伯爵は両の腕を左右に開いて構えると拳を作る。伯爵が初めて構えてみせた。発火。青黒く神妖な色をした、腐臭を放つ炎を纏った伯爵。燃え盛る黒炎。肌が凍てつくような、奇妙な痛みを覚える熱波がアルベセウスを襲う。並の戦士であればこれだけで押し潰されてしまうような膨大で暴力的な魔力を全身から噴出させる。破壊と殺戮の喰人、本領を見せた瞬間。
 伯爵の口の端が、どうだ。と言わんばかりに緩み上がり、唇の隙間からは青黒い障気が漏れる。
「相当な魔力だな……しかしそれも想定の内。所詮は喰人の域を超えるに至っていない」
「抜かしよる。そこまで言うのであれば、キミの本気とやらは私を満足させてくれるのだろうね?」
「勿論――ピアズィ フィアヴィッヒ――」
『頁四〇』、付加系(アタッチメント)特殊魔法『エカゥ』
 アルベセウスの首にグルリと浮かび上がるリボン状の魔法陣。
 アルベセウスが口を開く。
「――満足するどころか、貴様は後悔することになるだろう」
 その言葉が反響して何重にも重なって聞こえる。
 その魔法のもたらす効果が何であるかを一瞬で理解した伯爵が目を細め笑う。面白い。徹底して、この私に対して魔法で挑むということか――やはり地上は良いものだ。伯爵は久しく感じてなかった興奮を覚えた。
 幾ばくながらの興奮を堪能した伯爵の表情が落ち着き、瞳が山羊の目のように横に細長くなる。と、遠くで重く固く大きな、激しく衝突し合う音がここまで聞こえてきた。どうやらガイナとロロナの戦いも始まったようだった。
「ふふふっ、どうやら向こうは向こうで存分に楽しんでるようだね。私達もそろそろ始めることとしようか。本気の戦いとやらを」
「――ピアズィ アィゼン」
『頁一八』、攻撃系火系魔法『ヴォルレーゲン』
 魔法陣から生み出されるのは柄から刀身まで全てが火で成形された炎の剣。反響して聞こえる言葉全てに魔導書は認識して応える。次々と召喚される炎の剣は計一五本。全ての剣は切っ先を伯爵へと向けて宙に浮かぶ。
「貴様等喰人相手に一切の慈悲などかけぬ」
「願ってもないことだ。遠慮などせずに存分に振るってくれたまえ」
 雲一つ無い晴天の下、不釣り合いに荒れた風が二人を包む。アルベセウスの赤衣が激しく靡く。アルベセウスは伯爵の力量を見極めた上での、繰り返す強気の言動ではあったが、それは逆も又然り。伯爵も抜かりなくアルベセウスの力量を計り見極めている。先程の短い手合わせでどちらが精度で勝って、実力を読み取れたのか。ここでの誤りは即敗北を、死を意味すると言っても過言ではない。
 風がピタリと止んだ。それが開始の合図になる。
 二人は同時に動く。
「ぬあっはぁぁ!」
「ふっ!」
 地面が抉られ捲れ上がるほどに、地を蹴り一気に間合いを詰めてくる伯爵。
 瞬時に跳び後退るアルベセウス。
 インスタイルの伯爵にアウトスタイルのアルベセウス。
 アルベセウスは肝を冷やす。不快な汗が額に滲み出る。率直に言って、伯爵が動く速度は狂気じみていた。精神一到。神経を磨り減らしてでも、その一点に集中しなければ見失うほど。スピードにおいては伯爵が遙かに圧倒する。
 伯爵の優位。アルベセウスが伯爵の動きを目で追った時には既に背後を取られていた。振り抜く拳には幾重の残像が見える。
 しかし――轟音、爆炎に包まれ吹き飛んだのは――伯爵の方だった。
 空中で体勢を整え地に降りた伯爵を容赦なく炎の剣が赤い閃光となって襲う。
「ふんぬっ!」
 襲い来る閃光を拳で二分に裂き分断し散らす。
 アルベセウスの優位。赤い閃光は止まらない。伯爵を囲うようにして浮かぶ炎の剣が次々と伯爵を襲う。一撃二撃三撃と拳で殴り弾き返す伯爵。
 四撃、五撃、六撃、七撃、八撃、九撃目と拳で迎え弾く形で被弾を逃れていた伯爵であったが――十撃目が遂に伯爵の背中に直撃した。たたらを踏み隙を与えた伯爵に、残っていた四本の炎の剣が一斉に放射される。
 四方からの直撃に、干渉し合う力の逃げ場は宙。伯爵の体は爆風と共に宙に舞い上がる。
「……小、癪な……――なっ!?」
 空中で身を起こした伯爵は瞠目する。
 新たに召喚された炎の剣。その数六〇本の剣は伯爵を中心にして球状にして連なる。
 これには狼狽隠しきれない伯爵。
 伯爵の取った行動は――身を亀のように丸めての防御だった。その行動に、アルベセウスはほくそ笑んだ。閃光と化した炎の剣が容赦なく伯爵を襲う。全方位からの同時被弾に、先程のような力の逃げ場は無い。落下することも許されずただ圧されながら、伯爵は堪えてやり過ごすことしか出来なかった。丸める体。腕の隙間からアルベセウスを睨む。しかし、その目がまた瞠目する。
 剣で作られた球体領域に封じ込められることを余儀なくされた伯爵。無情にもその外側に二層、三層、四層と尋常でない数の炎の剣が球状に連なって召喚されていく。二層目一二〇本、三層目二四〇本、四層目……四八〇本。空が燃え盛る。小さいながらも、紛れもない太陽がそこにはあった。この瞬間、アルベセウスは自らの勝利を確信した。
 発動されたのは『頁六〇』。単純に六〇発の『ヴォルレーゲン』を同時に発動するだけ。だが今回は桁が違う。先に発動した『エカウ』の反響効果も相まって驚愕の計九〇〇本。
 いつ誰が名付けたのか、人はこれを――グーヴェンギーニフ オウ ゾンネ――太陽監獄と呼んだ。
 アルベセウスは何も言わず笑うと伯爵に背を向けて歩き始めた。
 これ見よがしなアルベセウスの態度に憤怒する伯爵。が、もはや伯爵にはどうすることも出来なかった。灼熱の猛威領域。絶え間なく伯爵の体へ打ち込まれる火の刃弾。まるでいたぶり殺すかのようにジワリジワリと燃え朽ちていく伯爵の体。
「ん……ぐぬぅ……こんな、こんな……こんなはずでは……なか……っ」
 あの時、逃げていれば……亀になる伯爵はそう思うが、もう遅い。やがて抵抗力を失った伯爵の体はもがれ燃え尽き灰へと帰してゆく。

「――ふぅ」
 戦闘領域から少し離れたアルベセウスは身近な木の根本へと腰を下ろした。
 空を眺めるアルベセウスに緩やかな風が吹き付ける。汗を掻いた肌には丁度心地良かった。
 ここから眺める離れた空では今も太陽監獄の爆発が続いていた。
「どうだったよ?」
 イーヴェルニングが話しかけてきた。
「何がだ」
「正直、冷や汗掻いてただろ」
「…………まあな。ヤツが留まらずに逃げていれば展開は変わっていただろうな。近距離戦闘はどうもな……性に合わん」
 アルベセウスは木の幹に背を深く預けた。
「向こうは。ガイナの方は良いのか?」
「いつもより早くリンカークスの発作がきているようだったからな、あの様子では喰人相手に済ませるつもりだろう。私はそれが『終わった』頃を見計らって行くとするさ……それに私の魔力も殆ど底をついた……」
 そう言うとアルベセウスはゆっくりと目を閉じた。
 空が一際明るくなった。太陽監獄が最後の爆発を迎えた。凄まじい衝撃が大気と大地を振るわせ、盛大に四散した不純物の混じった火の粉が、アルベセウスの居るところにまで滝のように降り注いだ。
「きたねぇ花火だ」
 イーヴェルニングがポツリと呟いた。その声は眠りに就いたアルベセウスには届いていなかった。

 場所をガイナとロロナの戦いの場へと移し、ほんの少し時間も戻す。
 マコロ平原。平原と言うだけあって戦う場所には困らない。ガイナが選んだ場所は広範囲にわたって草原が広がる地帯。視界を遮るものは何もない。
 グールバロンは一人思った。天気も快晴。太陽の暖かい光が燦々と降り注ぎ、心地良い風が草の香を運ぶ、なんと行楽日和なことか……目の前に喰人さえいなければの。
 ガイナと対峙するロロナという名の喰人。もう見た目は女の子でしかない。特色ある肌の色がなければ、誰もこの女の子を喰人と疑わないだろう。
 余計な先入観に感化されつつあるガイナ。今し方、このメイドの格好をした女の子の顔面を粉砕破壊したのも忘れたのか、ガイナはこれからこの喰人の身に与える悲劇を考えると少しの罪悪感が生まれそうになっていた。
 容姿と年齢が直結するものではないとは理解している。ましてや、喰人だ。見た目はこんなでも実際の歳は、ん百歳とか……なんだろう、とは思うのだが。
「やる前に一つ聞いておくが、お前……幾つだ?」
 姿形はオーガと呼ばれる高さ三米を優に超える化け物に変形しているが、声は元のガイナのままで不釣り合いなことこの上なかった。まるで道化芸を見ているようだ。
「? ロロナですか? ロロナは○○歳ですけど、それが何か?」
「見たまんまかよ……」
 姫様と同じときたか……ガイナは聞いたことを後悔した。が、今更どうすることも出来ない。『やる』ことは決まっているのだ。リンカークスの副作用である発作が完全に始まれば理性では抑えきれない。支配されるのだ、ある欲求に。ガイナはその欲求を解消するために、毎回城に遊女を呼んでは『済ませて』いたのだが、今回は城に戻るまで発作は待ってくれそうにない。発作はすでに始まりつつあった。
 だからガイナには『やる』必要があるのだ。
 オーガが持つ、オスがメスを服従、支配、奴隷とするための性的な欲求を鎮めるために喰人を『やる』……喰人を『殺る』前に『犯る』必要があった。
「おろっ?」
 景色が傾く。違った。ガイナの体勢が傾き崩れたのだ。ガイナは尻餅を付いて倒れた。
 そのガイナの目に入ったのは膝から下がスパッと切断され、ご丁寧に輪切りに調理された自分の足だった。
「何をやってるか」グールバロンの嘆いた声が聞こえた。
「確か、戦いは始まってますよね?」
 ガイナは後ろを振り向いた。さっきまで向かい合って立っていたはずのロロナがそこにいた。どこから取り出したのか、手にはお茶を乗せて運ぶためのティーソーサーを持ったロロナ。そのソーサーの縁は鋭利な刃になっており、ロロナはソーサーの真ん中に空いた小さな穴に指を通してクルクルと回す。
「あれ? もしかしてまだ始まってませんでしたか?」
「……いんや、とっくに始まってっから。オレがボーッとしてただけだ」
 ガイナは手を付くと立ち上がる。切断された足は早くも復元されていた。
「ですよね」
 笑うロロナが跳びかかりソーサーを振り下ろす。ガイナは余裕で肘から突き出た角で受け止めると流れるようにいなす。体勢が入れ替わるようにしてロロナの背後を取ったガイナは間髪を入れずにロロナの小さなお尻を蹴り上げた。砲台から発射される砲弾のようにロロナは空の彼方へと飛んでいった。
「おー、軽いからよく飛ぶなぁ」
 軽口をガイナは叩くが、当然これで終わるとは一つも思っていない。
 その通りすぐにもの凄いスピードでこちらへと戻ってきた。
 ロロナは目尻に涙を浮かべ、お尻をさする。
「か、か弱い女の子のお尻を蹴るなんてどういう教育受けて育ったんですか、あなた!」
「一度顔面ぶっ壊されてんだろが、今更だろ。それにこれは殺し合いだろーが!」
 軽く助走を付けたガイナは大きな体で跳び蹴りを披露する。しかしそれを難無く両手で受け止めたロロナはガイナの足を掴み、逆に地面に叩きつける。大きく陥没する地面。ガイナの呼吸が一瞬止まり大きな一つ目が激しくブレる。
「そう! でし! た! これ! は! 殺! し! 合い! でし! た!」
 攻撃の手を緩めないロロナは右に左とガイナの体を何度も地面に叩きつける。大地を太鼓にしたド迫力な演奏。逆さ振り子の状態のガイナの口からは血が吐瀉され撒き散らし、両手は力無く伸びきる。既にガイナの意識が飛んでいるのが分かった。
 ラスト。ロロナはガイナの足を掴んだまま宙へ跳ぶと、高い位置から渾身の力を込めてガイナを叩きつけた。
 仰向けにぐったりと倒れるガイナの目が真っ赤に染まる。ピクリとも動かない。
 息を切らしたロロナが倒れるガイナの頭の上まで来る。
「強くもないのに粋がるから……そのような醜態を晒すことになるんですよ? 本当、無様ですね」
 するとここでロロナは驚くべき信じがたい行動を取った。
「……そんな無様なあなたには……」
 何を思ったのか、ロロナはおもむろにスカートをたくし上げる。何とその下には下着を着けておらず局部が露出した状態であった。
 頬を赤くしたロロナ。スカートを握った手にグッと力が入り、下腹部にも力が入る。
「……んっ……出る……っ」艶を帯びた声がロロナの口から小さく漏れると――
 閉じた割れ目から勢いよくおしっこが放出された。急な放物線を描いたおしっこはガイナの顔へと降り注ぐ。
「たくさん……飲んでくださいね……」
 恍惚な表情に変わったロロナはゾワゾワと身震いを起こす。腰の角度を調整し、ガイナの口の中におしっこを注ぎ込む。口に収まりきらなかったおしっこが溢れて零れる。瞬く間にガイナの顔はロロナのおしっこにまみれてベチョベチョになってしまった。
 やがて勢いがなくなったおしっこはロロナの太股を伝う。残尿出し切ったロロナがまた身震いを起こした。何ともスッキリとした幸せそうな表情だ。この時ガイナの鼻がピクリと動いたが、悦楽の余韻に浸るロロナは気付いていない。
 またガイナの鼻が動く。おしっこ特有の鼻を突く匂いがガイナの鼻孔を刺激していたのだ。ここで、傍観していたグールバロンが痺れを切らしたか、やれやれといった感じでガイナの脳をチクリと刺激する。瞬時にガイナの視界が戻る。真っ先に飛び込んでくるロロナの晒された局部。このガキ、戦いの最中に一体何をやってるんだ? と驚くガイナは思わず喉を鳴らす。口内にはロロナの新鮮なおしっこが溜まっているとは知らないガイナは、
「っ!? がっはっ!」
 いきなりむせた。ロロナのおしっこが一気に喉を通ったものだから気管に入ったのだ。
「げほっ! げほ……っ、ごはっ、げほっ!」
「あら、気が付いたんですか」
 ロロナはたくし上げたスカートを下ろした。
「……げほっげほっ……て、てめぇ……っんっ……ん……オレに、何しやがった?」
「何って、ロロナのおっしこを飲ませました」
「は?」
「お味は如何でしたか? もちろん美味しかったでしょ?」
 ロロナに言われて、ガイナは口腔に残ったおしっこの味を確かめる。
「……確かになかなか良い味だな」
 ロロナの、侮蔑も含めての言葉だったのだがガイナから返ってきた言葉はロロナの予想としないものだった。
「あら、あなたもしかして変態さんだったんですか?」
「まあそれは否定できねーだろうな。とは言ってもオレがじゃねーぞ。召喚魂がそうさせるんだよ。召喚魂のおかげで今では小便飲むくらい何とも思わなくなっちまったからな。野郎の小便じゃねーからな、女の小便だからな。あ、それと召喚魂ってのは今のオレの状態のことな」
「へぇ……そうなんですか……そうなんだ……」
 ロロナは上からジッとガイナの顔を見る。その目は、先程ガイナを『無様』と一蹴罵っていた時に見せた蔑んだ目ではなく、爛々とした好気に満ちた目をしていた。俄に状況が変わりつつある。そんな空気がしてきてガイナは困惑した。
「……ねぇ?」
「なんだ?」
「もしかしたら……私とあなたって結構気が合うんじゃないでしょうか?」
「オレと? お前が? そりゃまたどうして」
「……だ、だって、あなた……私のおしっこ平気で飲めるじゃない……好きなんでしょ? だから……」
「あー……なるほど、お前そういう性癖持ってんのか。お前は飲ませる変態で、オレは飲む変態ってことか」
 ガイナは呆れ笑った。
「……確かに似た変態同士、気が合うかもしんねーな」
 ガイナのその一言で柔和な空気が生まれる。ガイナが意図して作り出したとかではなく会話の流れで自然と生まれた空気であった。
「ね! そうでしょ? だから……もし良かったら私と――」
 ロロナの口からその先の言葉は紡がれてこなかった。
 ガイナが完全な不意打ちを、ロロナに仕掛けたのだ。
 ガイナは巨人とは思えぬ凄まじい勢いで体を回転させロロナの足を薙ぎ払う。
 音を立てて折れた小さな両足を地に残したままロロナの体が何回転も宙を回る。すかさず体を起こしたガイナは回転するロロナを目掛けて平手を振り下ろした。ロロナの小さな体が地面にめり込む。
「ぁ……ぁ……っ」目の焦点を失ったロロナの口から微かな声が漏れる。
 そこにガイナは容赦なく拳を振り下ろす。何度も何度も何度も何度も――肉塊が拳に付こうが拳が血で染まろうが――何度も何度も何度も何度も何度も振り下ろした。
 ヌチィ――ロロナの顔面もろとも地面に突き刺さった拳を引き抜くと粘性の強い血が糸を引いた。ロロナの顔はおろか、体は原形を留めていなかった。超回復が始まらない。それもそのはず。心臓あってこその超回復、心臓が破壊されてしまえば超回復の機能は停止する。当たり前のことであった。
「……言ったろ。これは殺し合いだって……バカみたいな隙、見せんじゃねーよ……」
 これは本心で言った言葉ではなかった。不意打ちはガイナの本意とするところではなかったのだ。悲しいかな。ロロナが隙を見せたのを、今だけガイナの体に流れるオーガの血が見逃すのを許さなかったのだ。勝手に体が反応していた。
 勝ったというのに胸に残る達成感は微塵もなく、只々やる瀬ない気持ちだけがしこりのように残った。
「どうした……よもや情に絆されたか?」
 グールバロンがガイナに声を掛けてきた。
「……なワケねーだろ」
「そうか、なら良い。それより、発作は大丈夫なのか?」
「いや、それがもう……結構ヤバイ……」
 目も虚ろになったガイナ。召喚魂の術式が解かれ元の黒衣を着たガイナへと戻った。
「どうするのだ? 喰人を殺してしまった今、解消する術がないぞ」
「……そんなこと、分かって……っ、らぁな」
 ガイナは膝に手を付いた。異常なまでの性的な興奮が襲い、血液が茹だり体が異常熱を発する。したたり落ちる汗。ガイナは呼吸不全を起こし始める。朦朧とする意識の中、オーガが『犯せ』と連呼する。
 ガイナの腰が落ち、膝を付く。
 ガイナは自問する――犯るしかないのか。死体を相手に。死体を相手に犯れるのか? そもそも死体を犯ったところで発作は収まってくれるのか? と。
 ガイナは自答する――犯るしかないだろ。でないとこの身が持たぬ死んでしまう。このまま何もしなければ確実に死んでしまう。とりあえず犯るしかねーだろ、と。
「ガイナ!」
 突然グールバロンが叫んだ。ガイナが顔をしかめた。
「うっ……せぇな……分かってるよ。死体で済ませろって……言いてぇんだろ……」
「違う! ……おらぬぞ。喰人の姿が消えておる」
「……は? こんな時に、冗談言って……っ、言ってんじゃ……」
 息をするのも絶え絶えに、重くなった体を何とか動かし確認したガイナの言葉が止まる。
 ロロナの死体は無かった。生きていた?
「ど、どこに、行きやが……った……」
「ガイナ!」
 またグールバロンが叫んだ。だからうるせぇって。そう口にしようとしたガイナだったが、息を漏らすだけに留まった。背後から、喉元に銀盤の刃が突き付けられていた。持ち主は当然ロロナだ。超回復で元通りに復元された元気なロロナの姿がそこにあった。
「……なんだ……生きてたのか……」
「どうやら生きてました。ロロナもさすがに死んだと思ってましたけど。意外にタフなようです、ロロナ」
「そうか……」
 仕留めしきれてなかったガイナが感じたのは悔しさではなく、なぜか安堵感だった。
「……それにしても、あなたって本当に最低な人間ですね。ロロナまだ喋ってる途中だったのに。あなた本当に人間なんですか? 本当は人間の皮を被った喰人とかじゃないんですか? ……って、あれ? ど、どうしたんですか、なんか顔色がもの凄く悪くなってるんですけど? それに息も荒いです」
 どうしてこの喰人はここまで簡単に隙を作るのか。
「っ! ――きゃっ」
 ガイナは銀盤を持ったロロナの手首を素早く掴むと引き倒した。
 ガイナの下で仰向いて横になるロロナは吐息を漏らした。
「……また……不意打ちです」
 しかし、そのロロナの言葉に刺々しさは無い。目に映るガイナの苦悶の表情ばかりが気になっていた。
「一体どうしてそんなにも苦しんでるんですか?」
「わりぃけど……今から、っ……お前を犯す」
「それ……全く答えになっていませんよ? って言いますか……勃って、ますよ? もしかして……本気、ですか?」
 ひたすら犯したい。今すぐにでも犯したい衝動に駆られていたガイナだったが、最後の気力を振り絞って抑制し、苦しんでいる原因をロロナに説明した。最後の方になると声は掠れ、殆ど声になっていなかった。
「そうなんですか……いいですよ? そんなに苦しいのならロロナの体を使ってもらっても――」
 目も虚ろなガイナはロロナの言った言葉がちゃんと耳に入っているのか。ガイナはただ黙ったまま。その顔は気持ちが悪いほどまで筋が浮き上がる。
 それはとうに限界を越えてしまったことを示しているのであろう。ガイナの顔はまるっきり別人へと面変わりしていた。ロロナは構わず言葉を続ける。
「――ですけど、ロロナはメイドさんなんです。メイドさんはご主人様にしかご奉仕してはいけないという決まりごとがあるんです。ですから……分かりますよね? あなたが、ロロナのご主人様になってくれるのなら……うふふ、ロロナが心を込めてたっぷりとご奉仕してさしあげます」
 ガイナはしばらくロロナの顔を黙ってジッと見つめていた。
 よく見ると微かに口が動いていた。何かを必死に声にしようとしていた。だがオーガの色欲の衝動に蝕まれたガイナの身体、体中の至る所が機能不全を起こしていた。
 声の出ないもどかしさに、ガイナの顔には苦しみ以外の切迫感の色が滲み出る。頬を伝って落ちた汗の滴が何度もロロナの頬を濡らす。ロロナはそれを指で掬い拭うと小さな舌を出して舐める。
 目を細めて笑うロロナ。仕草雰囲気艶めかしさ。おおよそ人間の子供が醸し出せる色気ではなかった。ロロナは両手を広げて前に出した。ロロナは既にガイナが声を失い喋ることもままならないことを分かっていた。
「さあ、どうしますか? ロロナのご主人様になっていただけますか?」
 ガイナは、ロロナの出した条件を口で伝えるのを諦めた。強張った表情が緩んだ。
 ガイナは広げた腕に吸い込まれるようにロロナへ覆い被さり、その小さな体を強く痛いほど抱きしめた。腕に抱かれたロロナは満面の笑みを浮かべた。
「……了解したと捉えますからね……ロロナのご主人様」
「むぅ……」
 この喰人がガイナの命運を左右するのは明白な事実。グールバロンは成り行きを黙って見守るしかなかった。しかし……喰人とはこのような生き物であったか? わだかまる思いがあった。

 ロロナ。本名はロロナ・ファルケンメイドリッヒ。彼女は人間の敵、喰人である。
 事後余韻に浸るガイナ。足を組んで座るガイナの上には胸に体を預けるような格好で、顔を上気させたロロナが座っていた。
 ロロナのおかげで色欲の衝動も少し落ち着き、随分と顔色も良くなったガイナの口から溜め息が漏れた。気付いたロロナが覗き見るようにして顔を上げた。目があった。
「ご主人様、まだしんどいのですか?」
 心配そうな瞳のロロナ。本気でガイナのことを心配してくれていた。その目がイヤでガイナは目を背けたが、ロロナはガイナの黒衣の胸辺りを掴むと顔を接近させる。
「しんどい? しんどくない? どっちですか?」
「あ、あぁ……大丈夫だ。お前のおかげで助かった」
 ここでいきなりロロナが頬を膨らませた。
「ロロナです」
「ん?」
「ロロナは『お前』じゃないです。ロロナにはロロナという、ちゃんとした名前があります。次からはきちんと名前で呼んでくださいね?」
「そ、そうか。それは悪かったな。次からは可能な限り名前で呼ばせてもらう」
「可能な限りじゃないです! 絶対名前で呼んでくれないとダメです! でないとロロナ怒るから!」
「い、いや……オレ人に対して名前で呼ぶのが苦手なんだよ。特に女が」
「他の人を『お前』と呼ぼうがロロナには関係ありません。でもロロナのことだけは名前で呼ぶようにしてくれないとダメです。じゃないと……ロロナ絶対許さないから……」
 そう言うとロロナは顔を背けてしまったのだった。
 それを見ていたグールバロンが口を挟む。
「それぐらい応えてやらんか。この喰人がいなければお主は既に死んでいるのだぞ? それにだ。また直に第二、第三の発作が襲ってくるぞ? 城まで持つか? 持たぬだろ?」
「それは分かってんよ。分かってんだけどよ……」
「ぐちぐちと言うな。諦めろ……お主は詰んだんだ」
 苦渋の表情を作ったガイナはそれから数十秒後、やむなしとロロナのことを名前で呼んであげるのだった。
 まあ、一度ロロナの名前を口にしてしまえば慣れるのは早かった。
 そして会話の流れで、ガイナは聞いてみたかったことを口にする。
「――あのよ。聞きたいんだけど、ロロナは喰人だよな?」
「はい、ロロナは喰人ですよ? それがどうかしたんですか?」
「どうかしたかって言うかなんつーか、今までオレ達が相手してきた喰人と違うんだよな。アルベセウスが引き受けた喰人もそうだけど、無駄によく喋るし……何よりオレが一番違和感を覚えたのが、ロロナからは『殺し』に対する執着する気持ちが殆ど感じられなかったってことだ。オレが相手してきた喰人は、とりあえず挨拶変わりに人間を殺すようなヤツばっかだったからな」
「多分それは、ロロナが純粋培養で作られた喰人じゃないからだと思います、ロロナは伯爵に作られた、ある意味特殊な喰人ですから」
「純粋培養? ロロナが特殊?」
 初めて耳にする言葉にガイナが興味を抱くのは当然だった。
「えーとですね。簡単に言いますと、純粋培養生産の喰人は最初から人間に対する『負』の感情が埋め込まれてます。基本的に上位に立つ喰人も、殆どは純粋培養から生まれた喰人ですから、それはもう人間側からしてみればとんでもなく性質の悪い喰人となってしまうことでしょうね。恐らくご主人様が今まで相手になさってきた喰人の殆どは性質の悪い者達だったんだと思います。災難でしたねご主人様」
 そう言ってロロナは口元に手をやり「うふふ」と笑った。
「ロロナには、その……人間に対しての『負』の感情ってものは入ってないのか?」
「成長するに連れて芽生えた『負』の感情は持っていますが、少なくとも第三者の手によって植え付けられた『負』の感情は持っていません」
 ここでガイナに素朴な疑問が浮かんだ。
「その、伯爵だっけか。ロロナを作り出した伯爵は、なんでロロナに『負』の感情を植え付けなかったんだ? と、答えるその前に……悪いけどそろそろ退いてもらっても良いか? 足が痺れて適わん」
「いやです」
「……オレご主人様じゃねーのか?」
「えっと、それで伯爵のお話ですけど。伯爵はものすごく奇特なお方なんです」
「無視すんなよ、ったく。……で? 奇特?」
「はい、奇特です。伯爵は人間を殺しません」
「殺さないって。喰人がか?」
 ガイナはあからさまに顔をしかめた。
「あ、ちょっと言い方に間違いがありますね。正確には、伯爵は戦い上の成り行きでしか人間を殺めたことはありません。なんでも『殺し』にも美学があるとか、どうとか。ロロナには全然分かりませんけど……という様なお方です伯爵は。自分のお作りになったロロナや、その他のメイド達には伯爵と同じような生き方をしてほしいのではないでしょうか。あくまでこれはロロナの勝手な憶測でしかないのですけど。子は親を見て育つと言いますし」
 そう言うとロロナは振り向き、どうにも釈然としない表情を作ったガイナを見た。
「ご主人様、ロロナは良い子に育ってますか?」
「……んなもん分かるわけねーだろ、出会って間もないってのによ。まぁ、一つだけ言えるのは、ロロナは『ど』が付くほど『変態』ってことくらいだな」
「言いますね。でもそれはご主人様もです」
「……違いねぇ」
 二人どちらともなく笑う声が漏れた。

「――おっと、そういや向こうの心配はしなくてもいいのか? アルベセウスはかなり強いぜ?」
「伯爵ですか? 伯爵のことは心配しなくても大丈夫です。だって伯爵、あのお方は――」
 ロロナの口から紡がれ聞かされた事実にガイナは驚いた。

「……んっ……」
 アルベセウスが目を覚ます。イーヴェルニングに意識を刺激されての目覚めだったからか、あまり目覚めの良いものではなかった。
 アルベセウスは垂れて目に掛かる髪をかき上げる。
「どうしたイーヴェ。何かあった……」
 アルベセウスは言葉を飲んだ。強烈な異変を感じ取ったからだ。重く息を詰まらせる重圧が脳天から突き刺さるかのように襲い、アルベセウスにツバを飲み込ませる。
 アルベセウスは突き刺さる重圧の先を追い見上げる。そこには――
「……生きていたのか」
 短い言葉に緊張を含ませるアルベセウス。その視界が捉えたのは伯爵の姿だった。
 アルベセウスの放った太陽監獄をまともに喰らったというのに、伯爵の体は全くの無傷の状態であった。
 笑みを浮かべる伯爵は先程まで無かった翼を羽ばたかせゆっくりと地上に、アルベセウスの前に降り立つ。
 アルベセウスは膝に手を付き立ち上がる。
「……どういう事だ……」
「ん? 何がだね?」
「とぼけるな。貴様は私の炎で燃え散ったはず」
「あぁ、そのことかね」
 クスリと笑う伯爵。
「すまないね。少しばかり遊ばせてもらったよ」
「遊び、だと?」
 伯爵の愚弄の言葉にアルベセウスは言葉に怒気を滲ませる。魔導書が宙に浮く。底を突いた魔力は殆ど回復していないが、臨戦態勢に入る。
 しかしそれを伯爵は制する。
「やめたまえ。残念だが今のキミの力では私を倒すことは出来んよ。安心したまえ、私はキミを殺すようなことはしない。そもそも今回私がこの世界にやってきた理由は人間を殺すのが目的ではない」
 当然、伯爵の言葉を真に受けるアルベセウスではない。警戒の色を強めながら伯爵の言葉の意図を探る。
 そんなアルベセウスを余所に、伯爵は続けて口を開く。
「おっと、そういえばまだ私は名前を名乗っていなかったな。私の名はリベラルド・アッガーシュバイン――喰人を統べることを許された者――『ロゼ』だ」
 アルベセウスの体が一瞬で強張った。



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